経済や社会が変わるにつれて、仕事やキャリアの在り方も大きく変わり、従来の見方からのアップデートが必要になっています。従業員にとってキャリアが重要なことは明らかですが、この新しい環境における「キャリア」についても再定義が求められます。
従業員に意味あるキャリア体験を提供することは企業の優先課題です。優秀な人材の獲得・維持・育成は、キャリアのデザインと関連する人事施策に支えられたキャリアエコシステムの土台があることでより効果をあげられます。だからこそ、私たちは、キャリア成長と事業成長の両立実現に資する、ダイナミックで魅力的な職場環境の構築を支援いたします。
なぜ企業にとってキャリアが重要なのか
優秀な人材を引きつけ、定着させるには、報酬だけでは不十分です。また、経済環境の制約により報酬アップには限界があります。
私たちの調査によると、従業員は報酬や基本的な福利厚生に加え、フレキシブルワーキングや、仕事に目的意識を持てること、そして自身の成長を支える環境を求めていることが分かっています。実際に、効果的なキャリアマネジメントを行っている企業ほど、競合と比較して人材の獲得・維持において優位に立っています。
今日の多くの従業員は、従来のような企業主導の直線的なキャリアパスに囚われず、より広い視点で自分のキャリアを考えるようになっています。その際、自身の価値観と企業の方向性が合っているか、柔軟性や十分なサポートが得られるかといった点も、重要な判断材料になっています。
こうした変化を受けて、企業には、社員のキャリアをどのように捉え、どのように支えていくのかを、あらためて見直すことが求められています。その考え方の中核となるのが、「キャリアエコシステム」です。
キャリアエコシステムとは何か
キャリアエコシステムは、従業員に明確な将来の道筋を提供するものです。同時に、企業にとっては人事施策を一貫して運用するための基盤として機能します。
競争環境が厳しさを増すなか、多くの企業がキャリアエコシステムを通じて、社員にとって意味のあるキャリア体験の提供に取り組んでいます。
キャリアエコシステムの役割と重要性
キャリアエコシステムとは、従業員が意義のあるキャリアを築けるようにするための体系化された枠組みのことです。

図1:キャリアエコシステムを支える基本構造
キャリアエコシステムの中核となるのがキャリアフレームワークです。キャリアフレームワークはキャリアエコシステムの土台として、報酬・福利厚生・評価・キャリア開発といった各種人事施策を、一貫性を持って有機的に結びつける役割を果たします。
キャリアフレームワークを基盤として人事施策が設計され、それらが連動することで、キャリアエコシステム全体が機能します。
適切に設計されたキャリアエコシステムは、次のような効果をもたらします。
- 優秀な人材のエンゲージメントと定着
- イノベーション創出と生産性の向上
- 長期的な組織・事業の成長
キャリアエコシステムの重要な役割の一つは、仕事・成長・報酬に関する明確な指針を示すことです。具体的には、従業員が目指せる明確なキャリアパスや、透明性ある昇進基準、スキル向上能力開発の機会の提供を意味します。従業員が自らに求められている期待を理解し、必要なリソースにアクセスできる環境が整うことで、モチベーションや生産性、仕事への満足度の向上につながります。
キャリアエコシステムにおいて重要なのは、透明性を確保すること、公平に機会へアクセスできる環境を整えること、そして求められるパフォーマンス基準を明確かつ一貫した形で示すことです。これは、背景や性別、人種などにかかわらず、すべての従業員が平等に成長し、キャリアを発展させる機会を得られるようにすることを意味します。また、評価が客観的かつ一貫して行われるよう、明確で公平なパフォーマンス基準を定めることも含まれます。従業員が自身の価値を認められ、公平に扱われていると感じることで、組織へのコミットメントが高まり、それぞれが持つ力を最大限に発揮しやすくなります。
このようにキャリアエコシステムは、仕事・成長・報酬の在り方を定義し、それらを正しく導く役割を担います。そして、人事戦略と企業のパーパスを結びつけるとともに、各種人事施策を相互に連携させ、組織全体として効果的に機能させる基盤となります。
キャリアエコシステム構築のための主な要素

キャリアの目的・構成要素・戦略を明確にする
- キャリアと人事諸制度との連動性を具体化する
- キャリアと成果(人材面・業務面・財務面)との連動性を具体化する

ビジネスリーダーや経営層を巻き込み賛同を得る
- 取り組みの必要性・経営上の意義を明確化する
- 変えないことのリスクを整理する
- 継続的に見直し・改善する仕組みを整える

キャリアの価値をどう伝えていくかを考える
- どの領域で変化を実現・可視化したいかを明確にする
- 社員や採用候補者へのメリットを伝える
- 報酬や企業文化へのキャリアの結び付きを定める
キャリア分析による人材最適化
キャリアエコシステムの基盤となるのが、キャリアフレームワークです。適切に設計されたキャリアフレームワークは、社員が自分のキャリアを前向きに捉えるための中心的な役割を果たします。人事施策を整理・可視化し、キャリアフレームワークと結び付けることで人材育成をより効果的に進めることができます。
キャリアフレームワークでは、組織内の職務を整理します。この整理によって、人材施策や報酬制度の設計・更新はもちろん、M&Aに伴う組織・人材の統合など、さまざまな場面で活用できる基盤となります。
キャリアフレームワークは、以下の3つの要素から構成されます。
- ジョブレベリング
- ジョブアーキテクチャ
- ナレッジアーキテクチャ

図2:キャリアフレームワークを構成する要素
ジョブレベリング(職務評価)
ジョブレベリングとは、職務の大きさについて、範囲・複雑さ・インパクトといった観点から整理・評価する考え方です。職務レベルを格付けすることで、社員は自分の役割や今後のキャリアの方向性を理解しやすくなります。また、職務レベルを明確にすることで、報酬や昇進、キャリア開発の機会について、納得感のある判断がしやすくなります。
ジョブアーキテクチャ(職種分類)
ジョブアーキテクチャは、仕事で使われる知識やスキルの共通点をもとに、職務の種類を分類することです。これにより、組織上の配置にかかわらず、内容が近い職務を把握しやすくなり、キャリアパスを分かりやすく示すことができます。そして、同じ職能内だけでなく、異なる分野へのチャレンジもスムーズになり、キャリアの選択肢が広がります。
ナレッジアーキテクチャ(コンピテンシー・スキル・経験等の登用要件の体系)
ナレッジアーキテクチャは、キャリアフレームワークを時代に合わせて進化させていくための仕組みです。仕事とスキルを結び付けることで、社員がこれから市場で求められる知識や専門性を身に付けやすくなります。こうした仕組みがあることで、キャリアフレームワークは常に最新のトレンドを反映し、変化に強い組織づくりにつながります。
キャリアフレームワークがあいまいだと、何が起こるか
キャリアフレームワークは、社員が「次にどんな機会があるのか」を理解するための土台です。これが明確でないと、昇進の考え方が分かりづらくなり、結果として部下の給与をあげたいという気持ちが昇進判断の基準になってしまうことがあります。その結果、キャリアの機会や処遇に不公平感が生じます。もしキャリアフレームワークが整っていれば、職務レベルをもとに昇進を判断できるため、より分かりやすく、公正なキャリア運用が可能になります。
キャリアフレームワークと人事施策との連動
キャリアフレームワークは、以下のような人事施策と密接に連動します。

図3:キャリアフレームワークと人事施策の連動
戦略的人員計画
組織のキャリアパスやキャリアフレームワークにより人員体制の見取り図ができることで、戦略的ワークフォースプランニング(人員計画)が可能になります。将来必要となる人材像や重要なポジション、スキルの不足、後継者計画などをあらかじめ把握することで、事業目標の達成に必要な人材を適切に確保・配置することができます。
人材獲得とキャリアパス
キャリアの道筋が見えることで、仕事そのものの魅力を伝えやすくなります。キャリアパスが明確な企業は、求職者にとって「将来キャリアを描きやすい会社」として認識されやすくなります。自社での成長イメージを持てた候補者は入社を決断しやすく、入社後も安心してキャリアを積み重ねていくことができます。その結果、採用後の定着やエンゲージメントの向上にもつながります。
報酬および福利厚生
しっかりと整えられたキャリアフレームワークは、公平で納得感のある報酬・福利厚生制度の土台となります。仕事のレベルや責任に応じた報酬を設定しながら、将来の成長も見据えた制度づくりが可能になります。福利厚生についても、役割やキャリアステージに合わせて見直すことで、社員にとって使いやすく、納得感のある仕組みとなります。
キャリア開発支援
キャリアフレームワークが明確であれば、社員は自分のキャリアを自分ごととして考えやすくなります。目指す方向や期待される役割、活用できる支援が見えることで、安心してキャリアの次のステップを選ぶことができます。その結果、社員は必要な支援を受けながら、自ら成長し続けることができるようになります。
人材育成・能力開発
キャリアフレームワークがあると、どのタイミングで、どのような経験・学びが必要かが分かりやすくなります。キャリアレベルに応じたスキル要件をもとに、社員一人ひとりに合った育成を進めることができます。その結果、研修や育成施策を社員の目指すキャリアと結びつけて、持っている力を最大限に引き出すことにつながります。
パフォーマンスマネジメント
キャリアフレームワークが整っていると、評価の考え方を組織全体で標準化することができます。明確なキャリアステップやマイルストーンがあることで、納得感のある目標や評価基準を設定しやすくなります。社員は、自身の役割や将来のキャリアの方向性に照らしながら進捗を確認し、適切なフィードバックを受けることができます。その結果、より公平で実効性の高いパフォーマンス評価につながります。
タレントレビュー・後継者計画
キャリアフレームワークが整っていると、将来のリーダーを担う人材を見極め、計画的に育てていくことができます。優秀な社員の強みやキャリア希望と、ポジションのニーズと要件を照らし合わせながら、後継者育成を計画的に進めることができます。こうした取り組みが、社員のキャリア成長を支えると同時に、組織の将来への安心感にもつながります。
これらの施策は、キャリアフレームワークと連動することで、統合的かつ一貫した人材マネジメントを実現します。
キャリア体験と従業員体験
人材の採用や定着には社員が「この会社で働き続けたい」と感じられることが必要です。特に、キャリアの設計は、社員が働く上での実感や納得感を左右します。社員は、自分の仕事の内容や成長の方向性、会社との関係性を、キャリアを通じて整理し、理解していきます。
- 日々の仕事の内容
- 組織に対する業績貢献・インパクト
- 仕事の成果・業績
- 成長へのキャリア機会、アップスキリング、リスキリング
キャリアの考え方や設計を、社員にとって納得感のある形で提示することは、企業の魅力につながります。私たちの調査からも、社員が前向きに働ける環境を整えている企業ほど、業績面でも良い結果を出していることが分かっています。実際に、働く上での実感や納得感を高められている企業は、売上の伸びや収益性、さらには株主へのリターンにおいても、同業他社を上回る傾向があります。
総じて、キャリアを戦略的に整理・設計したキャリアフレームワークは、人事施策を効果的に進めるための土台になります。
