我々はファンドの運用を受任していますので、ファンドに投資してくれる投資家に対して、運用方針の説明を行っているわけですが、今回50社ぐらいを回り色々ディスカッションをした際に、正直ものすごくショッキングなことを言われました。“Japan is the country of low expectations”、 つまり「もう日本には期待してない」ということです。投資家は、現在の株高はデフレの終焉、為替、インバウンドの復活など、マクロ要因のおかげだと考えています。あとは消去法ですね。ウクライナ戦争の影響を受けやすいヨーロッパや様々な政治的問題を抱える中国などには投資しづらいけれども、その中では日本は安定しているからという消去法的理由で日本株が選ばれていると。日本をよく知っている投資家ほど、そのように言いますね。
中神:そうですね。むしろ彼らは、日本には20年間騙され続けてきた、裏切られ続けてきたと考えています。「君たちは“Japan is changing, Japan is changing”とずっと言ってきたが、全然変わってないじゃないか」というのが彼らの見解です。実際、資本生産性も上がってない、事業ポートフォリオの変革も進んでいない、ましてや身売りなどあり得ない。要するに日本企業は何にも変わっておらず、君たちが「変わった」と言っているものは全部“コスメティック”、つまりお化粧だよねと。だからもう日本は“country of low expectations”だと言い切っていました。ものすごくショックでしたし、悔しかったですね。
中神:我々がやらなければならないのは、真に構造的な変革をやっていく、しかも、それをダイナミックにスピード感ある形でやっていくということです。そうでないと、“country of low expectations”と言われ続けるでしょう。確かに今株価は上がっていますが、現状のままだと多分この株高は終わると思います。過去を振り返っても、だいたい日本株は6年か7年に1度大きく上がり、その後またlowレベルに戻るということを繰り返してきました。投資家は日本で本当に改革が進むのかを注視していますし、社外取締役はこれを推進していかないといけない。スピーディーにダイナミックに変わらなければ“company of low expectations”のままだということを、社外取締役が言わなければならないと思っています。
Shai: CEO の権限が取締役会と比べてどこまで強いのか、これは世界の各地域によっても異なります。例えば米国では取締役会に比べてCEOの権限がかなり大きく、米国企業では、たとえ大手でさえも、CEO が議長を兼務するケースが多くなっています。この2つの役割をCEOが1人で担えば、当然ながらCEOの権限は支配的になり、牽制も効かなくなります。したがって、米国企業がコーポレートガバナンスの良いモデルであるとは思いません。
ただ、株価というのは所詮ビジネスの派生物、いわば“ビジネスのデリバティブ”なので、取締役会はビジネスそのものを見て、それを共通の土台として持たなければなりません。そこで第二レイヤーとして、事業の特性や経済性があります。例えば、自社のビジネスがどういうライフタイムバリューを管理しなければならないビジネスなのかを定義をした上で、ライフタイムバリューを決めるKPIが3つ特定されれば、その3つだけ見ておけばよいことになります。あまり細かいことをいちいちモニタリングしてたらキリがありません。よく“What kind of business”という言い方をしますが、このビジネスは一体どういう種類の何を見なければいけないビジネスなのかということだけ合意して、3つぐらいの KPIを置いた上で、あとは多様性をもって、人によってはこれはこういう風に見えるという議論をしないと、コグニティブダイバーシティを活かし切れないと思います。
一橋大学の円谷先生の『データで見るコーポレートガバナンス』という本で、スキルマトリックスの要素として「技術」「財務会計」「経営経験」「国際性」を掲げている企業の割合を、日本、アメリカ、イギリス、 EU の4つのリージョンで比較しているのですが、「技術」「財務会計」「経営経験」「国際性」の4リージョンでどれだけ違うかを見ると、意外にも経営経験とか国際性については、日本は若干低いもののそれほど低くない。一番差があるのが財務会計のスキルセットで、日本は非常に低い。他の地域は財務会計のスキルを持っているのは当たり前になっています。先ほど申し上げた“What kind of business”では、財務会計というより管理会計の視点でビジネスを見なければならないので、財務や会計の結構な力が必要になります。さらにこの本ではスキルマトリックスの保有根拠が紹介されていて、ダウ30など米国の時価総額上位企業は、自社の取締役が財務会計スキルを持っていることの根拠として、「他社の取締役会で経験がある」とか「CFOの経験がある」といったことをスキルマトリックスに書いているんですが、日本企業のスキルマトリックスで挙げられていた根拠の第1位は「金融機関出身だから」です。日本で金融機関出身というと恐らく銀行を指していると思います。銀行が悪いわけではありませんが、やはり今の時代に求められているのはデッドファイナンスなのかエクイティファイナンスなのか、 あるいはその過渡期にあるということを考えると、資本市場のものの見方、すなわち株式投資家が財務や管理会計において何を重視するのかということに関してバックグラウンドのない人が「私は財務会計の知識があります」と言うのは問題ですし、そういった人がそもそも少ないというのは、「どういう取締役会構成が必要なのか」という櫛笥さんの質問に対する裏返しの回答として、望ましくない取締役会構成ということになると思います。