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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

心理的安全性に取り組むうえで企業が考えるべきポイントとは

執筆者 木塚 誉貴 森畑 映美 | 2023年4月11日

近年、心理的安全性に関する関心が高まっています。この記事では弊社が実施する調査の結果の一端をご紹介するとともに、どのようなサービスやソリューションをご提供できるのかについてご紹介します。
ESG and Sustainability|Work Transformation|Employee Experience
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ここ数年、心理的安全性に関する書籍が国内でも複数出版されるなど、組織のあり方への一つの視点として関心が高まっています。古くはSchein & Bennisの1965年の論文にルーツを持つ概念ですが、近年エドモンドソンの研究やGoogleのProject Aristotleにより着目され、弊社にも多くの問い合わせをいただくテーマのひとつとなりました。

心理的安全性は、ともするとそれ自体を高めることが目的化してしまいますが、本来は特に以下のような3つの視点において、それらを向上させるための、いわゆる媒介変数として意味を成すものです。

  1. リスクカルチャーの醸成、不正事案等リスクの未然防止
    リスクマネジメントは、リスクの小さな芽にどれだけ早い時点で気づき、対応できるが重要となります。そうしたときに、「おかしい」と思ったことを自分への報復などを恐れることなく「おかしい」と声を挙げることができる状況かどうかが、そして、声を挙げれば適切な対応がなされる、という信頼があるのかどうかが、極めて重要となります。リスクマネジメントの第一歩は、安心して声を挙げられる組織風土といえます。
  2. 生産性の向上
    従来の慣習や進め方に対して、「これまでこうだった」ということで押さえつけられることなく、メンバーが多様な側面から代替案を提示し、メンバー同士が健全に意見を闘わせることができる環境の整備は、非効率な業務プロセスの見直しにつながるものです。特に組織に潜む忖度や事なかれ主義を排する、といった風土に即した側面を変えていく上では、心理的安全性の担保が重要となってきます。
  3. イノベーションの創出
    現状の見直し、新しいことへの挑戦が定着し、日常的に繰り返される中で、新しいことを学習し、イノベーションを生み出すことにつながっていく可能性が高まります。

上記のそれぞれを実現していくために、会社全体として、またそれぞれの組織がどのような心理的安全性の状態であるかを把握し、可視化することは、心理的安全性の高い組織風土を醸成する第一歩となるものであり、エンプロイーエクスペリエンス(従業員体験、通称EX)向上の観点からも重要であるといえるでしょう。

WTW従業員エンゲージメント調査の傾向から

心理的安全性の視点から弊社にご依頼いただき実施した従業員エンゲージメント調査の近年の結果を振り返ると、以下のような傾向がみえてきます。

  1. 心理的安全性に関連する項目が持続可能なエンゲージメントのキードライバーとなっていること
    日本に本社を置く複数のグローバル企業において、特に昨年、「持続可能なエンゲージメント」のキードライバーとして、Wellbeingと併せて、心理的安全性に関する項目が特定される事例が日本企業においても増えてきています。
  2. 設問設計において心理的安全性に関連する項目を取り入れる企業が増加していること
    グローバルの傾向として、たとえば組織内で声を上げることに関する抵抗感(’Security in speaking up’)の有無を尋ねる設問をサーベイに組み込んだ企業は40%近くと多くなりました。
  3. 心理的安全性に関連する設問一部で、スコア下落の傾向がみられること
    グローバルの傾向として、組織において自分らしく振舞える、安心して発言できるなどの設問において前年よりもスコアの下落がみられ、直近3年の中で最も低い結果となりました。

こうした傾向は、従業員にとって心理的安全性が保たれた環境下で仕事をすることが重要な要素であるという事実を再確認させてくれるだけではなく、既に多くの企業がこうした風土や環境を創出するべく継続的なモニタリングを行っていることを示しています。以下では本テーマに関して弊社が皆様に対してどのようなサービスを提供することができるのか、その一端をご紹介します。

心理的安全性の現状を把握するためのアプローチ

当社の従業員エンゲージメント調査は、設問やカテゴリー別でのスコアの絶対水準だけにとどまらない多角的な結果分析を推奨しています。絶対水準を通じて「組織の中で何パーセントの方が各テーマを肯定的に捉えているか」を確認することは重要である一方で、自組織の結果は全社の中ではどのようなポジションにあるのか、あるいは、社外一般(他社)と比較した際の強みや課題はどこにあるのか、など、相対的な観点から結果を比較分析しなければ、組織の実態はなかなか見えてきません。

さらに、年齢や職種、役職などの属性という別の切り口で結果をみることで、組織の中でも、特にどのようなグループがその問題に直面しているのか、また個別の属性グループ特有の課題の存在有無など、より詳細な部分にまで分析の視点が及ぶということも利点です。これは心理的安全性を計測するうえでも同様で、社内外のベンチマークとの比較や属性分析、統計解析などを通じて一歩踏み込んだ現状の可視化に基づいて、特定の組織やグループに対する施策の検討を促します。

当社では、エドモンドソンが心理的安全性を定量化する方法として提唱している7つの質問 “7-item Edmondson index”をWTWの外部基準値設問と紐づけ、従業員の意識から組織の心理的安全性のレベルを計測する”Psychological Safety Index”を提供しています。この7つの質問は、弊社の研究(信頼性分析の結果)によって、インデックスとしての強い信頼性が示されていることが検証されています。弊社のクライアント様においても、近年このIndexを活用して現状の心理的安全性を計測し、さらには経年での計測を行うことで心理的安全性の継続的な改善を確認する企業様が増えています。

心理的安全性を改善するための組織・人材開発施策

本稿の前述でもご紹介した通り心理的安全性の確保は、リスクの未然防止や生産性向上、イノベーション創出などにつながるため、心理的安全性を改善するためには、組織や人材の観点から施策を打つことが求められます。また、当社のエンゲージメント調査に関する研究からも、「信頼の構築」「公平な処遇と報酬」「奨励・勇気づけるリーダーシップスタイル」「従業員間のコラボレーション」などが心理的安全性を高める主な要因として挙げられることが分かりました。

当社では、心理的安全性に関する社員意識の現状を可視化したうえで、それを改善していくための具体的な組織・人材開発施策のご支援も提供しています。ここでは2つほどのケースをご紹介します。

① 組織風土改善

特定の組織において心理的安全性が低いという課題が従業員エンゲージメント調査の結果から見えてきた場合、具体的な改善策を特定するためには、まず課題の本質を突き止める必要があります。そこで、当社では従業員エンゲージメント調査のデータをコンサルタントが分析し、該当組織において具体的にどの領域が心理的安全性の弊害となっているのかの初期仮設を設定します。その後、該当組織のリーダーや従業員の生の声を収集しながら更なる深堀分析を実施いたします。その際には、サーベイよりもさらに具体的な問いかけができるバーチャルフォーカスグループや、自組織の従業員体験を評価し、取り組むべき課題の優先順位付けを行うHPEXホワイトボードを活用したワークショップなどが有効なツールとして考えられます。

② 管理職人材のリーダーシップスタイルの見直しの支援

管理職によるチームのマネジメントスタイルが従業員の心理的安全性にもたらす影響は大きく、高圧的な姿勢や失敗を極端に罰する慣習などは組織の風通しの悪さにつながります。そこで、人材アセスメントを実施することで、心理的安全性を改善するうえで組織を管理する立場にあるマネジャーやリーダーの強みや課題、注意点を抽出し、本人にフィードバックし、組織運営の改善に活用いただくことができます。さらに、個人の潜在的なリーダーシップリスク(リーダーによる誤った意思決定・言動によって、組織に与える潜在的なダメージ)を特定し、心理的安全性を阻害する原因を未然に突き止めることもできます。

おわりに

本稿では、心理的安全性を企業が高めるべき意義をテーマに、弊社の従業員意識調査における近年の傾向や、企業が具体的にどのように心理的安全性を可視化し、組織運営の改善につなげていけるかについてご紹介してまいりました。

景気変動、異常気象、国際情勢など社会を取り巻く様々な変化が絶えず発生している現代において、リスクの未然防止や生産性の更なる向上、そしてイノベーションの創出は持続的な業績成長を実現するために必要不可欠な要素となります。そのため、企業は組織の現状をしっかりと理解し、社員が安心して働ける環境基盤を構築していくことが強く求められています。当社では、従業員意識調査プラットフォームを活用した心理的安全性の現状把握と深堀分析だけでなく、その先にある組織・人材開発に関わる様々なプロダクトやコンサルティングサービスをご提供しております。企業運営における人事・組織面からの情報提供やお困りごとにつき、お気軽にお問い合わせください。

執筆者

アソシエイト
Employee Experience(EX)

リードアソシエイト
Employee Experience(EX)

南洋理工大学 (NTU) 卒業後、外資系PR会社を経て2019年入社。戦略的PRのバックグラウンドを強みとし、M&Aにおける企業の文化統合や、人事制度改定、組織変革などチェンジ・マネジメントおよびコミュニケーションに関する戦略計画や実行支援を行う他、従業員エンゲージメント向上や組織開発に関連するプロジェクトにも参画。


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