地域金融の持続的成長を支える、業界の壁を越えた視野でのプロアクティブな制度改革
地域金融機関を取り巻く環境は、人口減少や地域経済の縮小、収益性の低迷など、構造的な課題が顕在化している。昨年末に金融庁が公表した「地域金融力強化プラン」でも示された通り、これまでの延長線上のビジネスモデルでは持続的成長が難しく、事業構造・組織体制・人材ポートフォリオの再構築が求められている。株主・投資家、地域企業といったステークホルダーからも、より積極的で戦略的な地域金融機能の発揮を求める声が高まっている。
こうした背景のもと、地銀が今後も成長を続けるためには「守り」から「攻め」への転換が不可避である。単なる効率化やリスク抑制だけでなく、地域産業の成長支援、投資機能の強化、事業多角化への挑戦、及びそのための専門人材の登用拡充など、企業価値に直結する打ち手をとることが求められ、これまで以上の変革を迫られていると言っても過言ではない。本稿では、この「攻め」のビジネスへの転換にあたり、鍵となる問題意識を整理の上、その実現を支える報酬制度・ガバナンス改革への道標を示したい。
「攻め」の経営を実現するうえで重要なのは、「経営陣が適切なリスクテイクを行い、その成果に責任を負う仕組み」の実装である。掛け声だけでは行動は変わらず、制度に裏打ちされた動機付けがあって初めて、経営幹部のマインドセットを「成長志向」へ転換し、経営判断のクオリティとスピードを向上できる。その中核を成すのが「経営者報酬改革」であるが、ここで鍵となるのが以下3つの視点である。
従来、地銀は業界・地域内での相対比較を主とした制度設計を志向してきた。しかし昨今、業界・県境の垣根が低下して事業領域が広がり、株主・投資家も「安定志向」でなく「企業価値の向上」を期待している状況の中、比較すべき対象はむしろ、同規模の上場企業や、高い資本効率で成長する企業群であろう。とりわけ人材戦略の観点でも、投資機能やコンサルティングなどの事業多角化を担う経営人材(含、社外取締役)や高度専門人材を獲得するうえで、業種を超えた競争力のあるインセンティブ設計が不可欠となるだろう。
幅広い業種をカバーし、企業価値(時価総額)や規模等を基準としたベンチマーキングへの転換は、株主・投資家の期待値と、市場競争力へのマインドセットを経営に取り込むための起点となる。
ベンチマーキングのターゲットを転換しても、参考程度にとどめ、従来のようなコーポレートガバナンス・コード対応のみを意識した保守的な制度設計に終始していては意味をなさない。ベンチマーキング先との制度設計の格差は、自社が迫られている「競争力」の格差であることを真摯に受け止め、経営陣の行動変容を具体的に促すべく、斬新な制度改革の検討へと駒を進める必要がある。
とりわけ、経営ビジョンや戦略目標とアラインした短期・中長期インセンティブの制度設計、及び株主との利害共有を深めるための株式報酬や株式保有ガイドライン導入などは、持続的な企業価値向上へのコミットメントとしてステークホルダーに評価される要素ともなる。
上記①・②の制度改革は、報酬委員会を中心とした強固なガバナンスの構築が大前提であることから、両者は「車の両輪」とも位置づけられる。
報酬委員会はCEO等の経営陣に対し、適正レベルのリスクテイクを促し、その成果が上がれば報い、一方で企業価値を棄損する動きがあれば警鐘を鳴らす役割を担う。そのような安心感があってこそ、ステークホルダーも経営陣への「競争力」のある報酬設計を受け入れていることを忘れてはならない。
そのためにも、十分なスキルセット(見識・経験)を有するメンバー構成のもと、独立的立場での経営陣のパフォーマンスの評価、適時適切な情報把握と深度ある審議、及び開示と投資家エンゲージメントを通じた説明責任の発揮ができているか、すなわち委員会の実効性確保も重要な論点となる。
すでに一部の地銀では、上記2で示した3つの視点での改革に取り組まれており、具体的には以下のような事例が見られる。
<事例>
これらの取組みは、単なる制度改定ではなく、経営陣の「企業価値」「資本効率」を重視するスタンスへの転換を促し、組織全体に浸透させていく契機ともなる。上記のような地銀の事例が、業界全体の変革を先導する道標となることが期待される。
上記3で紹介した、制度改革へ既に着手されている地銀には、業界をリードし、さらには業界の壁を越え新たな事業を展開していくフロンティアとして、より一層の先進的な制度改革を追求していくことが期待される。「地域金融力強化プラン」で示された投資ビジネスの実装や、マーケットからの要請でもある「政策投資先とのエンゲージメント」を見据えると、従来の「融資」を超えて「投資」の見識を有する経営人材や高度専門人材(CXO)の起用も必要となる中、同規模・時価総額の企業をベンチマークとしたさらなる改革の意義も一層高まるものと予想される。
その一方で、他の地銀におかれても、上記の事例を参考としつつ、他業界のトレンドも踏まえた制度設計の底上げが求められる。地域のおかれた環境など個社別の制約はあるものの、業界全体としての意識改革を図ることが、地域金融の持続的成長に資するものと期待される。
地銀を取巻く規制・マーケット環境が大きく変わる今こそ、従来の視野や枠を越え、自社の経営戦略・人材戦略・ガバナンスのあり方に立ち返り、次の10年に向けてそれらを支える戦略的な報酬制度改革を検討する絶好のタイミングであるものと考えられる。
メガバンクのグローバル部門、大手監査法人・信託銀行でのガバナンス、リスクマネジメント、内部監査のコンサルタントを経てWTWへ入社。取締役会改革やグループガバナンス、経営者報酬改革等のアドバイザリーに携わる。上場企業の役員トレーニングや外部研修機関のセミナーにも講師として多数登壇。