「強い取締役会」の実装に向けた取締役会実効性評価に係るプロアクティブな工夫・手法
企業の稼ぐ力を取り戻す「攻めのガバナンス」を志向したコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)は、2015年の制定から11年目を迎え、年内には3度目の改訂が予定されている。これまでの間、わが国の企業の取締役会には、メンバーの多様性や社外取締役比率の向上等とともに、経営戦略等のアジェンダセッティングや審議の充実化、さらには指名・報酬に係る監督の強化が求められるなど、ステークホルダーからの要請も「形式」的な体制整備から「実質」的な運用深化へと大きくシフトしてきた。
とりわけグローバルに事業展開している企業は、不透明な経済・市場環境や地政学・サイバー等のクロスボーダーリスクをフォワードルッキングな視点でコントロールしつつ、マルチカルチャーな顧客への価値提供を不断に継続するためのリスクテイク(新規事業、事業撤退、M&A等)をスピーディに決定していくことが必須な環境におかれている。そして、それを支える取締役会には、複雑で難しい舵取りを担える経営者の指名と、その報酬設計を通じたインセンティブの醸成、そしてグローバルを含む真の「多様性」を活かした議論への参画と経営判断の後押しなど、ステークホルダー視点に立った巧みなガバナンスの実装が期待されている。
CGコード(補充原則4‐11③)が求めている取締役会実効性評価は、まさにそのような「強い取締役会」へのトランスフォーメーションに向けたPDCAの一環として位置づけられるはずである。しかしながら、わが国では未だ多くの企業が、アンケート調査を毎年実施(一部の企業ではインタビュー等も実施)[1]しているものの、課題の洗出しはほぼ一巡しており、殆ど同様の課題とアクションプランを毎年列挙・開示せざるを得ないなど、いわゆる「形骸化」「マンネリ化」に悩まされているものと推察する。また一方では、社外取締役が情報提供や資料提出のタイミング等に苦言を呈するだけの、実質的な「事務局」の実効性評価となってしまっているケースも散見される。
そのような負のサイクルから脱却し、「監督と執行の分離」のもとでの取締役会の本来的な監督機能をプロアクティブに評価するためには、斬新かつ多様な視点から監督機能の中核(含、指名・報酬)にスポットライトを当て、潜在的課題を掘り起こすための工夫・手法を講じることが期待される。その参考事例として、以下の4つをご紹介したい。
01
外部機関の専門家が取締役会に陪席し、議案の説明や質疑応答及び議論等を直に観察する手法であり、英国では大手銀行等での外部機関による実効性評価で採用されている。この手法により、取締役会の審議そのものの実効性について、アンケート等ではなかなか把握できない実情や課題を一目瞭然で把握でき、またリアルタイムで即効性のあるフィードバックを行うことも可能となる。
この手法を通じ、よく見られるシチュエーションとしては以下が挙げられる。いずれも、単に取締役個人の資質・能力の問題として終わらせることなく、この状況を生み出しているガバナンス上の課題や、それに根差したフレームワークとしての改善策(含、取締役の選解任、サクセッションプラン等)の検討までつなげることが重要である。
なお、わが国では、カルチャーや慣習から、外部機関による取締役会陪席へのハードルが高い企業が多いものと推察される。その際は、これに代わる手法として、外部機関が審議の録音を事後的にヒアリングすることや、(記載の粒度次第であるが)議事録を閲覧することによっても、ある程度は同様の効果を得られるものと思われる。
02
取締役のみならず、取締役会に属さない執行側メンバーにもアンケート調査を実施することで、評価の多面性・客観性の向上が期待できる。たとえば指名委員会等設置会社のように、執行(執行役等)と監督(取締役)とが明確に分かれるケースでは、取締役ではない執行役や執行役員・CXOクラス、また持株会社であれば主要子会社の社長等にもアンケートに回答していただき、それらの集計・分析結果を、取締役によるアンケート集計・分析結果と比較対比してみることが考えられる。
これにより、「監督する側」(取締役会)と「監督される側」(執行側)との間で言葉のキャッチボールができているか、すなわち取締役会が発信した方針や指示・メッセージが、執行側に正しく伝わり、業務執行へ期待どおり反映されているか、などを客観的かつ公平な視点から評価することが可能となる。実際に、取締役側は適切に「監督」していると自己評価していても、執行側はそのように受け止めておらず、取締役会による「監督」は不十分と評価するケースも想定され得る。その際には、このような認識ギャップがなぜ生じてしまったのか、それを収束させるためにはどうすればよいかを、外部機関が中立的立場から双方の見解をヒアリングしつつ検討していくことが考えられる(もしくは後述3②のとおり、監督側と執行側との間でディスカッションの機会を設け、相互の見解をぶつけ合いながら乖離の真因を探ることも一案である)。
ちなみに監査役会設置会社では、監査役による評価結果が重要な判断要素となり得る。なぜなら監査役は取締役会に毎回出席し、議決権は有さないものの、取締役の職務執行を監査する立場で議論に参画しているからである。監査役にとっては取締役会実効性評価こそが、自らのミッションである「取締役の職務執行の監査」を体現できる機会でもあることから、客観的で忌憚のないフィードバックがなされることが多い。その評価の視点も、企業経営から財務・会計、内部統制システムに至るまでの監査スコープをカバーしているため、課題の原因分析や改善策の検討においても参考となるケースがよく見られる。
03
評価結果を取締役会で報告する際には、以下3つの目的から、取締役会メンバー全員によるディスカッションを行うことも有用である。いずれもメンバー各位からの多種多様な意見を、中立的かつ客観的に整理しつつ議事進行していく必要があるため、経験・実績とも豊富な外部機関をファシリテーターとして起用することが有用である。
04
「監督と執行との分離」のモニタリングモデル化が進むなか、監督機能の「一丁目一番地」である指名・報酬領域、すなわち指名委員会や報酬委員会の実効性評価[2]は、ますます注視されていくものと考えられる。
指名委員会や報酬委員会の実効性評価では、従来型の取締役会実効性評価でよく見られるようなメンバー構成や会議運営のみのシンプルな設問設計で終わらせず、サクセッションプランや報酬制度改革等の主要テーマの検討プロセスに焦点を当てることが重要である。そして委員長とも対話しつつ、当該プロセスのなかで「議論すべき重要な論点が漏れていないか」「国境・業種を超えた人材マーケットへの感度は十分か」「ベンチマーク対象(地域・業種・企業)の選定につき、適時のタイミングで適切なデータベースをもとに議論しているか」等を専門的見地から評価のうえ、具体的な改善策(例:次年度に向けた委員会アジェンダの見直し)につなげることが求められる。そのファシリテーターとして、指名・報酬領域、特に指名委員会や報酬委員会への陪席アドバイザリーの実績・経験が豊富な外部機関(コンサルタント)を起用することが、有効な成果につながると言っても過言ではないであろう。
(本稿は「上場会社役員ガバナンスフォーラム」の【特集】コーナ―への寄稿(2026年2月3日掲載)を転載したものです。)