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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

「強い取締役会」に向けた実効性評価の工夫と手法

「強い取締役会」の実装に向けた取締役会実効性評価に係るプロアクティブな工夫・手法

執筆者 佐川 裕一 | 2026年2月5日

形骸化やマンネリ化などの負のサイクルから脱却し、「強い取締役会」へのトランスフォーメーションに向けた本来的な監督機能をプロアクティブに評価するためには、斬新かつ多様な視点から監督機能の中核(含、指名・報酬)にスポットライトを当て、潜在的課題を深堀するための工夫・手法が望まれる。
Executive Compensation
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企業の稼ぐ力を取り戻す「攻めのガバナンス」を志向したコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)は、2015年の制定から11年目を迎え、年内には3度目の改訂が予定されている。これまでの間、わが国の企業の取締役会には、メンバーの多様性や社外取締役比率の向上等とともに、経営戦略等のアジェンダセッティングや審議の充実化、さらには指名・報酬に係る監督の強化が求められるなど、ステークホルダーからの要請も「形式」的な体制整備から「実質」的な運用深化へと大きくシフトしてきた。

とりわけグローバルに事業展開している企業は、不透明な経済・市場環境や地政学・サイバー等のクロスボーダーリスクをフォワードルッキングな視点でコントロールしつつ、マルチカルチャーな顧客への価値提供を不断に継続するためのリスクテイク(新規事業、事業撤退、M&A等)をスピーディに決定していくことが必須な環境におかれている。そして、それを支える取締役会には、複雑で難しい舵取りを担える経営者の指名と、その報酬設計を通じたインセンティブの醸成、そしてグローバルを含む真の「多様性」を活かした議論への参画と経営判断の後押しなど、ステークホルダー視点に立った巧みなガバナンスの実装が期待されている。

CGコード(補充原則4‐11③)が求めている取締役会実効性評価は、まさにそのような「強い取締役会」へのトランスフォーメーションに向けたPDCAの一環として位置づけられるはずである。しかしながら、わが国では未だ多くの企業が、アンケート調査を毎年実施(一部の企業ではインタビュー等も実施)[1]しているものの、課題の洗出しはほぼ一巡しており、殆ど同様の課題とアクションプランを毎年列挙・開示せざるを得ないなど、いわゆる「形骸化」「マンネリ化」に悩まされているものと推察する。また一方では、社外取締役が情報提供や資料提出のタイミング等に苦言を呈するだけの、実質的な「事務局」の実効性評価となってしまっているケースも散見される。

そのような負のサイクルから脱却し、「監督と執行の分離」のもとでの取締役会の本来的な監督機能をプロアクティブに評価するためには、斬新かつ多様な視点から監督機能の中核(含、指名・報酬)にスポットライトを当て、潜在的課題を掘り起こすための工夫・手法を講じることが期待される。その参考事例として、以下の4つをご紹介したい。

  1. 01

    取締役会における審議の観察

    外部機関の専門家が取締役会に陪席し、議案の説明や質疑応答及び議論等を直に観察する手法であり、英国では大手銀行等での外部機関による実効性評価で採用されている。この手法により、取締役会の審議そのものの実効性について、アンケート等ではなかなか把握できない実情や課題を一目瞭然で把握でき、またリアルタイムで即効性のあるフィードバックを行うことも可能となる。

    この手法を通じ、よく見られるシチュエーションとしては以下が挙げられる。いずれも、単に取締役個人の資質・能力の問題として終わらせることなく、この状況を生み出しているガバナンス上の課題や、それに根差したフレームワークとしての改善策(含、取締役の選解任、サクセッションプラン等)の検討までつなげることが重要である。

    • 社内取締役又は執行側の議案説明(又は事前説明)が的を射ず、その後の審議の充実度が不十分
    • 社外取締役の質問に社内取締役が答える一問一答に終始し、相互の「対話」や「壁打ち」に発展しない
    • 社外取締役の質問・指摘が枝葉末節で大局観に欠け、執行業務に深入りしてしまう
    • 議長の采配が不十分なため、議論が盛り上がらず、結論や次の方向性も曖昧なまま審議終了してしまう

    なお、わが国では、カルチャーや慣習から、外部機関による取締役会陪席へのハードルが高い企業が多いものと推察される。その際は、これに代わる手法として、外部機関が審議の録音を事後的にヒアリングすることや、(記載の粒度次第であるが)議事録を閲覧することによっても、ある程度は同様の効果を得られるものと思われる。

  2. 02

    取締役以外のメンバーからの多面的評価

    取締役のみならず、取締役会に属さない執行側メンバーにもアンケート調査を実施することで、評価の多面性・客観性の向上が期待できる。たとえば指名委員会等設置会社のように、執行(執行役等)と監督(取締役)とが明確に分かれるケースでは、取締役ではない執行役や執行役員・CXOクラス、また持株会社であれば主要子会社の社長等にもアンケートに回答していただき、それらの集計・分析結果を、取締役によるアンケート集計・分析結果と比較対比してみることが考えられる。

    これにより、「監督する側」(取締役会)と「監督される側」(執行側)との間で言葉のキャッチボールができているか、すなわち取締役会が発信した方針や指示・メッセージが、執行側に正しく伝わり、業務執行へ期待どおり反映されているか、などを客観的かつ公平な視点から評価することが可能となる。実際に、取締役側は適切に「監督」していると自己評価していても、執行側はそのように受け止めておらず、取締役会による「監督」は不十分と評価するケースも想定され得る。その際には、このような認識ギャップがなぜ生じてしまったのか、それを収束させるためにはどうすればよいかを、外部機関が中立的立場から双方の見解をヒアリングしつつ検討していくことが考えられる(もしくは後述3②のとおり、監督側と執行側との間でディスカッションの機会を設け、相互の見解をぶつけ合いながら乖離の真因を探ることも一案である)。

    ちなみに監査役会設置会社では、監査役による評価結果が重要な判断要素となり得る。なぜなら監査役は取締役会に毎回出席し、議決権は有さないものの、取締役の職務執行を監査する立場で議論に参画しているからである。監査役にとっては取締役会実効性評価こそが、自らのミッションである「取締役の職務執行の監査」を体現できる機会でもあることから、客観的で忌憚のないフィードバックがなされることが多い。その評価の視点も、企業経営から財務・会計、内部統制システムに至るまでの監査スコープをカバーしているため、課題の原因分析や改善策の検討においても参考となるケースがよく見られる。

  3. 03

    取締役会メンバー全員によるディスカッション

    評価結果を取締役会で報告する際には、以下3つの目的から、取締役会メンバー全員によるディスカッションを行うことも有用である。いずれもメンバー各位からの多種多様な意見を、中立的かつ客観的に整理しつつ議事進行していく必要があるため、経験・実績とも豊富な外部機関をファシリテーターとして起用することが有用である。

    1. 重要課題に係る認識の共有
      重要課題を全ての取締役に共有し、改善の方向性についてもコンセンサスを得ることが可能となる。ディスカッションのなかでは、課題を指摘した取締役から、その判断根拠や背景等を説明してもらい、他の取締役からも関連する意見・気づきを出し合うことで、組織の実情に即したアクションプラン検討につながる効果も期待される。
    2. 評価結果の属性間乖離の分析
      社外取締役の評価が社内取締役の評価を大きく下回る課題については、たとえ両者の平均値が合格ラインに達していても、内容次第では潜在的なリスク要因となり得る。なぜなら、社内取締役ができたつもりとなっている「社内の常識」が、他社も兼務する社外取締役の目には「他社対比で十分とはいえない」、すなわち「社外の非常識」と映っているかもしれないからである。このようなケースでは、社内取締役と社外取締役との間で、臆することなく互いの見解をぶつけ合いながら乖離の真因を探りつつ、その後の認識・目線の収束(すなわち、自社の特性や実情に即した、目指すべき姿のレベル感の共有)につなげることが一案と考えられる。
    3. 課題の重要性に応じた、対応の優先度・時間軸の整理
      複数件の重要課題が抽出された場合、それらすべてを同時期かつ一斉に改善させていくのは、リソースの制約もあり難しいケースが多い。したがって、まずは課題別の重要性を評価のうえ、それに応じた対応の優先度と時間軸を、事務局の対応余力を勘案しながら協議することが考えられる。
  4. 04

    指名・報酬領域の深掘り(指名委員会・報酬委員会の実効性評価)

    「監督と執行との分離」のモニタリングモデル化が進むなか、監督機能の「一丁目一番地」である指名・報酬領域、すなわち指名委員会や報酬委員会の実効性評価[2]は、ますます注視されていくものと考えられる。

    指名委員会や報酬委員会の実効性評価では、従来型の取締役会実効性評価でよく見られるようなメンバー構成や会議運営のみのシンプルな設問設計で終わらせず、サクセッションプランや報酬制度改革等の主要テーマの検討プロセスに焦点を当てることが重要である。そして委員長とも対話しつつ、当該プロセスのなかで「議論すべき重要な論点が漏れていないか」「国境・業種を超えた人材マーケットへの感度は十分か」「ベンチマーク対象(地域・業種・企業)の選定につき、適時のタイミングで適切なデータベースをもとに議論しているか」等を専門的見地から評価のうえ、具体的な改善策(例:次年度に向けた委員会アジェンダの見直し)につなげることが求められる。そのファシリテーターとして、指名・報酬領域、特に指名委員会や報酬委員会への陪席アドバイザリーの実績・経験が豊富な外部機関(コンサルタント)を起用することが、有効な成果につながると言っても過言ではないであろう。

(本稿は「上場会社役員ガバナンスフォーラム」の【特集】コーナ―への寄稿(2026年2月3日掲載)を転載したものです。)


注釈

  1. 「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2025」によると、取締役会実効性評価を実施している会社(補充原則4-11③にコンプライしている会社)2,603社のうち、「アンケート等(質問票等)」を実施している会社は2,009社(77.2%)、「ヒアリング(インタビュー、聴取等)」を実施している会社は291社(11.2%)となっている。 本文に戻る
  2. 「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2025」では、指名委員会や報酬委員会の実効性評価を実施している企業の割合について統計データがない。しかしながら、開示において「指名」に言及している会社は413社(15.9%)、後継者計画・サクセッションプランに言及している会社は270社(10.4%)、報酬に言及している会社は491社(18.9%)となっており、少なくともこれらの会社では指名・報酬領域を対象とした実効性評価を実施しているものと推察される。 本文に戻る

執筆者


ディレクター
経営者報酬・ボードアドバイザリー

メガバンクや大手監査法人、大手信託銀行を経てWTW入社。メガバンクや、大手銀行、大手保険をはじめ多数の上場企業に対するコーポレート・ガバナンスの評価・高度化助言に従事。各種セミナー講師、寄稿・共著等も多数。


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