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2026年現在の地平線

執筆者 河原 索 | 2026年2月5日

AIが社会に浸透し人事は「業務・人材・人事自身」の3点で急速な変化に直面する。効率化が進む業務と人の判断の重要性が高まる業務に分かれていくが、後者を担う人材の開発こそが難しく、ゲームデザインを参考にした学習デザインが求められる。人事自身も客観性と情理の狭間で大きな変革期を迎える。
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年末年始、これからの人事とAIの相関性についてゆっくりと思考を巡らせた。その変容の未来の絵姿を完全に描くことはできず、自分の力では「結論を出せない」と率直に認めるしかなかった。

ただ、AIがもたらす未来の不確実性を前提としつつ、今見えつつあるものも取り込みながら、本稿では複雑な議論をあえて簡略化し、今後の要となる3つの論点---「業務の変化」「人材の変化」「人事の変化」---に焦点を当てて、現時点での議論を整理させてもらう。

AIによって人余りと人不足が生じるが両方を人事が支援していく

日本の労働市場における人手不足は、構造的な問題として深化の一途をたどっている。パンデミック以降、日本は5年にわたり完全雇用状態を維持しており、人材需要の旺盛度合いは明白だ。

以前、弊社の海外コンサルタントから「OECD統計で顕著な労働力不足が示されている日本でなぜ報酬水準が停滞し続けているのか」と問われ、合理的な説明に窮したことがあった。しかし、この数年でようやく潮目が変わり、賃金引上げが継続的なトレンドとなった。物価上昇の累積に比して昇給ペースは依然として後塵を拝しているものの、経済活動が正常化軌道に乗り始めた点は高く評価できよう。

目下の賃上げ機運は初任給の引き上げやあるいは賞与比率の調整といった競争的な観点から議論されることが多い。しかし、求められるのは表面的なトレンドへの追随ではない。希少な経営資源である人材に対して、貢献の見返りを得る場、そして自己研鑽を果たす場としての「働く場の魅力」をいかに再定義するかという人材獲得競争のより根本的な問いに向き合う覚悟である。

一方、今後に向けて気にかけるべきは米国テック大手を中心としたAIによる業務代替を契機とした人員削減である。日本においてもAI実装が急速に進展しており、2026年には製造業・サービス業を問わず、AI代替に伴う人員適正化やリスキリング、戦略的な配置転換が経営の最優先議題となることは確実で、人手不足と人員削減がより入り混じるようになると思われる。

AI時代に特に重要度が高まるのは累積・結合型知識を持つ人材

日本における「人手不足」は多層的な構造があり、精緻な分解が必要である。多く議論される観点として、一つは女性や高齢者の労働参加、外国人労働力の職域拡大や、昨今話題のフィジカルAIによる代替といった労働力投入の量の文脈、もう一つは事業開発やデジタル領域でのプロフェッショナル等の知識体系が複雑高度で高い質の人材の供給が不足しているという文脈である。

この人手不足への対応策を議論する際、この両者を峻別しながらそれぞれの打ち手を構築しなければ一兎さえ得られない。あえて単純化するならば、前者は都度更新が必要な分散的な知識を反復的に活用する人材群、そして後者は累積的な知識を効果的に結合して新しい知識を生み出す人材群に分けられる。

分散・反復型の知識の領域では、経済活性化に伴う労働需要の拡大を少子高齢化による供給制約が加速させ需要過多の状態が続いている。しかしここで注意すべきは、労働需要の拡大という大きな渦の中で、AIによる業務効率化、代替化、さらには省人化という真逆の別の渦が発生し、これらが同時並行かつ加速しながら進行していることである。

この技術浸透の速度は圧倒的であり、気づけば既存業務の景観が一変しているという事態も現実味を帯びてきている。このように事業競争力の源泉が「変化への適応速度」へと転換する中、 自社業務の何を拡張し、何を再編するのか。それに伴い、人員をどう補充し、シフトさせ、あるいは削減していくのか、事業部門に伴走する人事にとって、今年は極めて難度の高い、そして冷徹なまでの「戦略的な意志」を伴う舵取りが求められる一年となるだろう。

翻って累積・結合型の知識の領域はより一方向的に希少性が高まると思われる。AIの強みは、膨大なデータに基づく情報の抽出・集約・分類、および構造化にある。人間の限定的合理性を補完するに留まらず、適合する領域では人間を遥かに凌駕する処理能力で、膨大なタスクをわずか数分で遂行できる。しかしながら、プロンプトでは到底記述不可能な包括的な文脈の理解、長年の経験が醸成する複合的知識体系、さらにはそれらから形成される「勘」や「直感」を伴う複雑系情報処理に人間らしい機微、機転、機知を加え、相手の感情へと働きかけることはAIには到達し得ない人間固有の領域に他ならない。

表面上のもっともらしい回答や、統計的な確からしさに依存するAIの予測では、この人間固有の領域は当面は代替されそうにない。ただ、ここで困難なのは経験に裏打ちされて磨き込まれた知見を、即時にかつ有機的に結び付けてアウトプットできるAIを凌ぐ累積・結合型の知識を身に着けた人材は一朝一夕に育成できないことである。インターネットやAIによって知識がコモディティ化し、平坦化された世界において、こうした「仕上がった人材」の密度こそが、企業の持続的な競争優位を決定づける。彼らをいかに確保し、育成し、組織の核として配置できるか。それが、次世代の企業競争における強力な差別化要因となる。

人材の育て方は意図した学習を誘発するようゲームデザインに近づいていく

高度な累積・結合型知識の・スキルを持つ人材の確保が企業の死活問題になると、自ずから次の課題はその人材の確保方法となる。お金を積んで外部から採用するのは即効性こそあるが、会社への価値観・文化適合性や忠誠心に不安があり、その分の手当をするマネジメントコストを常に伴う。そしてスピードを買うための当座の策としては有効だが、継続的な自社の強みとして安定させるには自社内部からの厚みのある人材供給の方が圧倒的に望ましい。

卓越した高度な人材を形作るのは、キャリアを通じて学習されたその重層的かつ有機的に結びついた知識・経験体系であり、これはリアルな経験を通じてこそ血肉と化す。人間のパフォーマンスの差を生む要因は、地頭やパーソナリティといった先天的な資質以上に、どのような学習機会に恵まれてきたかの「経験の質」に求める方がフェアである。ただ、この「効果的・効率的な学習を誘発する意図的な経験の付与」こそが、今日の人材開発における最大の難所となっている。

従来の等級・評価制度や、階層別・専門性研修といった一通りのプログラムでは、もはやこの複雑な知の系譜を育むことはできない。求められているのは、単発のタスクアサインメントやOJTを超えた、一人ひとりにフォーカスした長期的かつ継続的なキャリアレベルでの「学習機会」の再デザインである。

これを考えるにあたっては、個人の自律性を尊重しながらも、組織が望ましい方向へと暗黙的に導くような段階的な成長と達成感を精緻に設計し、最終目標に至るまでエンゲージメントを維持させる「ゲームデザイン」の考え方が参考になる。

ここでゲームデザイナーの思考方法についてAI(Gemini 3, 2026)に出力してもらった。 AIは一般論を要領よくまとめることは得意であり、これを編集の上記載する;

生成AI自体も素晴らしいが、ここで記述した一連の言葉が持つ圧倒的な説得力こそが真に注目すべきである。ゲームデザインに蓄積されたエンゲージメント向上への数々の叡智を人事領域へと転換していくこと。これは2026年現在の混迷の時代において、事業競争力に資する人材集団を形成するにあたっての人事の取り組みの大きな道標となるだろう。

人事業務の多くはAIと親和性が高いが、心は捨てない方がよさそう

最後に一つだけ、AI時代における人事の立ち振る舞いについても現在進行系の議論として二点触れておきたい。人事業務とAIとの親和性と、人事特有の割り切れない情理の問題である。

まず人事の既存業務の多くは年度サイクルに縛られたイベントの繰り返しである。繰り返し業務や同様プロセスの多方展開はAIやIT化による効率化やデータ蓄積による予測精度の向上の余地が大きい。人事は限られた人員で採用、人材開発、制度運用、労務管理、従業員コミュニケーション等に細分化された領域毎でなんとか「回す」ことで精一杯となり勝ちだが、ITやAIによる効率化、省人化はこの停滞を打破する強力な援軍となり得る。そして、自動化・効率化等で捻出された時間は、本来人事が担うべき戦略的対話や、人間が人間に対してサービスへと再投下されるべきである。

一方で、人事政策の立案や重要意思決定におけるAI活用には、慎重な議論が求められるべきである。AIは人間のバイアスや判断の揺らぎを排除する点において卓越している。しかし、それは裏を返せば、血も涙もない杓子定規な裁定という心理的な拒否感の要素も孕んでいるからである。

人事が扱う情報は得てして人間の感情に絡むものであり、虚実混交、本音と建前が入り混じっている。「大丈夫です」という言葉の裏にある疲弊、「キャリアアップのため」という綺麗事の退職事由に隠された金銭的な不満。AIは処理されて整えられた大量の正しいデータを扱うことには長けているが、個別性が高い情報や、機微が求められる情報は今のところは苦手である。人事が血の通った組織であり続けようとすれば、割り切っても差し支えない判断や、間違いも挽回できるレベルの判断以外は任せにくいのが当面の実情であるし、社員の人生の機微に触れる判断において最後の一線を越えさせるのはAIではなく人間の役割であろう。

AI活用における先行者利益は必ずしも強くない。日進月歩の技術革新の中では、早すぎる導入は時期尚早のリスクを伴い、他社の成否から学ぶ後発の利もまた大きい。しかし2026年の今、技術の成熟度が高まり、社員のマインド変容進んだ。もはや傍観の時は終わり、機は熟したと見るべきだろう。

執筆者


河原 索
シニアディレクター, Work, Rewards & Careers プラクティスリーダー, Japan
Work and Reward

日本貿易振興機構(JETRO)を経て現職。国内外の大規模な組織・人事変革に関わるプロジェクトに従事。ICU卒、慶應院卒、G検定合格


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