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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

今、なぜファイナンシャルウェルビーイング(FWB)が重要なのか

執筆者 中島 明子 西野 有一 | 2025年11月5日

新型コロナ以降、従業員のウェルビーイングの重要性は着実に高まっており、企業はウェルビーイングを人材戦略の重要な要素と捉え、人材戦略における差別化要因として活用しています。本稿では、特にファイナンシャルな側面(FWB)にスポットを当て、その重要性と施策例についてご紹介します。
Health and Benefits|Employee Wellbeing
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はじめに

企業の競争力・採用力・生産性を高める経営戦略の一部として福利厚生が注目される中、WTWが2025年に行ったベネフィット・トレンド・サーベイ(福利厚生動向調査)によると、福利厚生の最大の課題は、全世界的に、「コスト」と「予算面の懸念」であり、人材獲得と人材定着、社員のウェルビーイング向上は引き続き重点取り組み事項として挙げられています。特に、その中でも、ウェルビーイングのファイナンシャルな側面が注目されつつあります。

ファイナンシャルウェルビーイングの重要性

現代は、絶え間ない変化と不確実性に満ちた時代です。こうした環境の中で、従業員にとって経済的な安全性の確保はますます重要なニーズとなっています。ファイナンシャルウェルビーイング(FWB)とは、「経済的な側面から良好な状態にあること、経済的に安全な状態」を意味しています。経済的な不安は、メンタルヘルスや仕事のパフォーマンスにも影響を与えるため、企業にとっても従業員のFWBを支援することは重要な課題となっています。

一方、FWBに対する認識については、従業員と企業の認識にギャップが見られています(図1)。弊社が従業員向けに実施した調査(「グローバルベネフィット意識調査」2022年)において「今後3年間で企業に支援してほしい分野」として6割以上の従業員がFWBを挙げています。しかしながら、WTWが企業を対象として実施した調査(ウェルビーイング診断調査2024年)によると、FWBに対する企業における優先順位は高くありません。

【WTWグローバル調査結果から得られた示唆】

  • FWBに対する企業・従業員の優先度・ニーズのギャップは大きい。
  • WTWのグローバル調査結果によると、 APACでも日本でも、 企業のFWBに対する優先度は高くない。
  • 一方、従業員視点からは、企業に支援してほしい分野としてFWBのニーズが高い。

(図1)設問:今後3年間で支援が必要な分野の上位2つは?

出所: 企業からの回答は「ウェルビーイング診断サーベイ(2024)、従業員からの回答は「グローバルベネフィット意識調査」(2022)
5つの調査の視点 アジア太平洋地域(APAC) 日本
企業 従業員
(企業-従業員)
企業 従業員
(企業-従業員)
従業員体験 56% 35% +21 73% 44% +29
精神的ウェルビーイング 57% 41% +16 32% 19% +13
身体的ウェルビーイング 62% 46% +16 55% 53% +2
社会的ウェルビーイング 13% 25% -12 21% 20% +1
ファイナンシャルウェルビーイング 18% 53% -35 14% 64% -50

確かに、従来の福利厚生としてのハード面での施策の整備は進んできていますが、従業員は、単なる「貯蓄」や「収入の多さ」ではなく、自分の価値観に合ったお金の使い方ができているか、そして予期せぬ事態に備えられているかについて非常に興味があり、そこがギャップの背景にあるようです。

経済的な問題は、人生におけるストレスの中心となることが多く、お金をコントロールできることは、その他のストレスや緊張を軽減する大きな要因となります。企業経営の観点からも、従業員が自分のキャリアやFWBを高められるよう支援することは、終身雇用が保証されていない現代において、従業員の定着やエンゲージメント向上にもつながります。 さらに、人生100年時代を見据えた長期的な視点では、FWBは「ライフ・キャリア(自分の人生をどういきていくか)」を設計する上での根幹的な要素であり、企業・従業員の双方にとって欠かせない視点といえるでしょう。

効果的なファイナンシャルウェルビーイング施策

従業員のFWB(経済的な側面から良好な状態にあること、経済的に安全な状態)を支援する企業のプログラムとして、従来から提供されているのは、退職金・企業年金制度、住宅支援、財形貯蓄、従業員持株会等が挙げられます。最近では、LTD制度(団体長期障害所得補償保険)や、奨学金返済支援を導入する企業も増えています。また、ソフト面での支援として、「ファイナンシャルプランナー/ファイナンシャルアドバイザーの紹介」、「確定拠出型年金(DC)の投資教育」も盛んです。

ここで課題となるのが、様々なプログラムの品揃えの拡充が、従業員のFWB向上に充分に寄与できているかという点です。確かにハード面のサポートは基盤であり、金融リテラシー向上のための知識・情報提供は将来設計に必須です。しかし、FWB向上の根幹として大切なことは、「なぜお金が大切なのか」、「何のためにお金の確保が必要なのか」、「お金をどのように使うのか」ということを従業員に再認識してもらうことです。それを踏まえて、自分自身の過去を振り返り、「今後どんな風に生きていきたいのか」、「今後どのような人生を送りたいのか」というライフ・キャリア・ビジョンを考え、そのために必要なお金について、「足りていない」部分をマイナスに考えるのではなく、「お金を使って人生を充実させる」、「ワクワクする人生を送る」といった前向きなメッセージを込めて企業がサポートし、従業員にプロアクティブに行動してもらえるようにすることが大切です。そのためには、従来型の金融リテラシー向上教育とは別に設計した「FWBセミナーやワークショップ」が有効でしょう。(WTWでは公開紹介セッションを実施する予定です。ご興味のある方は是非ご参加ください。)

また、従来のプログラム(例えばLTD制度)をFWBの視点から見直すことも重要です。次にLTD制度を例にしてご紹介します。

プログラム事例ーFWBとしてのLTD制度の活用

退職までの在職中の従業員の「万一」に備える仕組み(LTD制度:団体長期障害所得補償保険)は、社員が生涯にわたって安心して生活設計・リスク対応ができFWBを再認識する制度といえます。

雇用の流動化が進む現代において、勤続年数に応じて給付が多くもらえる従来の福利厚⽣制度は、勤続年数の短い転職者にとって魅力的な制度とはいえません。企業内に転職者が増えるなか、LTD制度は転職者にも魅力的な制度です。

LTD制度は、病気やけがなどが原因で働けなくなった際に収⼊を補償する保険のため、従来はリスク・ベネフィットの側面が大きかったのですが、ファイナンシャルウェルビーイングと結び付けてアピールすることができます。下記(図2)のように、実際に病気やケガで長期に休職される紫色の方は、従業員の中でもほんの一握りです。この休職した従業員は、会社のLTD制度によって給付を受け取ることができるため、収入が途絶えることなく生活を支えることができます。この安定した収入源が、経済的な不安を軽減し、精神的な健康まさにウェルビーイングにも良い影響を与えます。一方で、ピンク色囲みのそれ以外の従業員は、実際に金銭的な恩恵は受けないものの、LTD制度があることにより安心して働くことができます。LTD制度は、不測の所得喪失の不安を感じることなく、安心して業務に従事することができるため、従業員のウェルビーイング向上にも寄与します。

(図2)LTD制度とFinancial Wellbeing (FWB)

実際に病気やケガで長期に休職される紫色の方は、従業員の中でもほんの一握りです。この休職した従業員は、会社のLTD制度によって給付を受け取ることができるため、収入が途絶えることなく生活を支えることができます。
この安定した収入源が、経済的な不安を軽減し、精神的な健康まさにウェルビーイングにも良い影響を与えます。一方で、それ以外の従業員は、実際に金銭的な恩恵は受けないものの、LTD制度があることにより安心して働くことができます。LTD制度は、不測の所得喪失の不安を感じることなく、安心して業務に従事することができるため、従業員のウェルビーイング向上にも寄与します。
FWBとは、経済的な側面から良好な状態にあること、経済的に安全な状態を意味します。LTD制度により、不測の所得喪失の不安を感じることなく安心して業務に従事することができ、従業員のWB向上に寄与します。

また、LTD制度は、会社が保険料を負担して全従業員を補償する全員加入部分に加え、従業員が個人で保険料を負担するような任意加入制度の設計も可能です。この各人の加入判断・自助努力部分は、将来への経済面での安心につながるナッジ(従業員がFWBを考えるきっかけの後押し)としても有効です。例えばLTD制度と高額療養費制度と組み合わせて、自分が入っている医療保険を見直ししてみようという考えや、他社に転職を考えている従業員であれば、「転職先ではLTD制度が無いようなので、総合的なトータル・リワードを考えて今の会社でもう少し頑張ってみよう」という気持ちが生まれ、人材流出の防止にもつながります。 

LTD制度導入が企業にもたらすメリットを纏めると以下のようになります。

まとめ

ファイナンシャルウェルビーイング(FWB)は、従業員が安心して働き、人生設計を描くための基盤であり、企業にとっても持続可能な成長を支える重要な要素です。従業員の金銭的不安が軽減されると、集中力・創造性・判断力が高まり、職場でのパフォーマンスが向上するだけでなく、企業が従業員の「お金の健康」にまで配慮していると、従業員は「自分を大切にされている」と感じることができます。それが心理的安全性・信頼感につながり、エンゲージメントの向上や人材の定着率にも寄与します。

今後も、企業が従業員の経済的安心を支える施策として、FWBを戦略的に活用していくことが、より良い職場環境づくりの鍵となるでしょう。

執筆者


ディレクター
Health & Benefits

において福利厚生全般のコンサルティングに25年以上の実績を有する。M&Aにおける福利厚生・就業条件の統合、ウェルビーイング関連のプログラムの設計・実施支援を行う。
中央大学法学部卒  特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント
「職場のストレスチェック実践ハンドブック」共著(創元社)


シニアアソシエイト
Health & Benefits

日系損害保険会社の企業営業部門にて、大手日系企業のリスクの把握、TCORを最小化するソリューション、保険手配を提案。その後、外資系損害保険会社の営業推進部門にてEmployee Benefitの主力商品であるGLTD、GPAの販売促進を担当。WTWではH&BにてSales Promotion、外資系企業の従業員向け生損保商品、H&Bコンサルティングを担当。


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