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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

2025年ベネフィット・トレンド・サーベイ(福利厚生動向調査)結果概要

執筆者 西野 有一 | 2025年7月30日

WTWでは企業の福利厚生のトレンドを把握するため、福利厚生動向調査を2年に1度実施しており、福利厚生戦略を形成する重要な要因、直面する課題や将来計画されている変化を中心に調査しています。本稿では、本年の調査結果の概要をグローバル結果と日本の結果の違いに着目しつつ纏めております。
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1. 背景

目まぐるしく変化する今日の企業活動において、福利厚生でマーケットの一歩先を行くことは極めて重要です。WTWが2年に1度グローバル規模で実施している本サーベイでは、組織の福利厚生戦略を形成する重要な要因、直面する課題や将来計画されている変化について調査しております。 本サーベイは、現在の情勢を調査し、時代の最先端を行くための重要な考察から、貴社の発展に役立つ実用的な気づきを得ていただく機会を提供します。

今年のサーベイでは、組織内での福利厚生の役割、支出計画、優先事項や効果など、幅広いトピックを掘り下げています。また、コミュニケーションやエンゲージメント戦略、テクノロジーの活用、財務管理、ベンダー管理や福利厚生サポートにおけるAIや、特定の従業員グループに対するサポートといった、新たなトレンドについても調査しております。

2. 本調査について

全世界の105の市場に所在する5,538社の企業(24.3百万人の従業員)に参加いただき、日本においても97社の企業(169千人の従業員)に参加いただきました。エリア別では、アジア太平洋地域(APAC)の参加企業数が最も多く、1,994社の企業に参加いただきました。

3. 調査結果の要点

表1:調査結果の要点
課題 高まるコストへの懸念 予算への圧力と福利厚生コストの上昇により、企業が福利厚生を強化・提供する能力は、これまで以上に制約を受けています。

特に、医療費の増加とウェルビーイングの目標達成の難しさが、最大の課題となっています。
目標 福利厚生をバリュープロポジションの中核に据える意欲 人材に関する課題は依然として続いており、企業は福利厚生を人材の獲得・定着、そしてウェルビーイングの向上を図るための手段として活用する計画です。

また、企業は、自社の目的や価値観を示す手段として、福利厚生の質を高めようとしています。
戦術 コスト制約下での価値の最大化 福利厚生を拡充している企業は少数です。多くの企業は、より多くの選択肢とサポートを通じて従業員が福利厚生を最大限に活用できるよう、支出の再調整を図っています。

また、ベンダーのコスト削減や追加サービスを通じた付加価値の追求、福利厚生チームへの業務拡大、コストとリスクに関する分析の強化などにより、コスト管理を徹底しています。
注力 主要なプレッシャーポイントへの対応と体験価値の向上 企業は、家族向け福利厚生など、ウェルビーイングの精神的および経済的側面における、従業員の主要な課題への対応を優先しています。
医療保険や退職給付といった基本的な福利厚生も、引き続き重要な注力分野です。

また、企業は、テクノロジー、ナッジ(行動促進)、ナビゲーションといった手法を活用し、従業員の行動変容を促すソリューションを導入しています。

全世界的に、福利厚生の最大の課題は、「コスト」と「予算面の懸念」である、という結果になりました(表1参照)。

特に医療費の増加と従業員のウェルビーイングが課題となっています。日本の医療保険は皆保険制度ですが、日本以外の多数の国では企業が従業員のために福利厚生制度として医療保険を手配しています。WTWが2025年に行ったグローバル・メディカル・トレンド・サーベイ(世界の医療保険会社調査)では、昨今の医療費の高騰で、グローバル全体で3年連続10%のインフレが確認されており、保険会社の報告では今後数年間はこの10%を超える上昇傾向が続くとみています。

その一方で、人材獲得と人材定着、社員のウェルビーイング向上は引き続き重点取り組み事項です。企業は、福利厚生を人材に関する課題解決のための手段として活用しようとしています。

ただし、福利厚生をさらに拡充する企業は少数で、現在ある福利厚生制度を最大限に活用し、費用配分を見直している企業が多い結果となっています。具体的には、ベンダーのコスト削減や追加サービスを通じた付加価値の向上、投資したコストから福利厚生の価値を最大化する施策が検討されています。

加えて、現在企業が注目しているのが、ファイナンシャルウェルビーイングです。ファイナンシャルウェルビーイングとは、「経済的な側面から良好な状態にあること、経済的に安全な状態」を意味しています。WTWが行なった「グローバルベネフィット意識調査(従業員向けのアンケート調査)」によると、従業員はファイナンシャルウェルビーイングについて支援を求めているものの、企業における優先順位は高くなく、従業員と企業の認識にギャップが見られています。

ところで、日本の調査結果を全世界結果と比較すると、従業員の家族のサポートの重要性が高くなっています。2025年に団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、介護に携わる従業員が増えてくる懸念と、女性活躍支援に係る出産・育児サポートへの懸念に起因すると考えられます。

4. 各企業の課題

グローバルで企業が直面している最大の課題は福利厚生コストの上昇

全世界で企業が福利厚生戦略に影響を与えていると考える課題は、2021年には「ダイバーシティ&インクルージョン」が最大の課題でしたが、2023年では4位、2025年においてはランク外となっています。
一方で、コストに関する懸念が順位を上げており、2021年では6位であった「福利厚生コストの上昇」は2023年では4位、今回の調査ではトップの課題です。「予算に対する財政的圧力」についても順位を上げており、コストへの圧力、コスト削減の意識が強まっています。
図1:設問-貴社の福利厚生戦略に影響を与えている主な課題は何ですか?(グローバル)

出典:2021年・2023年・2025年 ベネフィット・トレンド・サーベイ(グローバル)

こちらは、全世界において、企業が福利厚生戦略に影響を与えていると考える課題です。

2021年には「ダイバーシティ&インクルージョン」が最大の課題でしたが、2023年では4位、2025年においてはランク外となっています(図1参照)。

一方で、コストに関する懸念が順位を上げています。2021年では6位であった「福利厚生コストの上昇」は2023年では4位、今回の調査ではトップの課題です。「予算に対する財政的圧力」についても順位を上げており、コストへの圧力、コスト削減の意識が強まっています。

日本では人材獲得競争が引き続き課題、従業員パフォーマンス、透明性やメンタルヘルス等の課題が上位であることが特徴

コスト上昇についても課題感は増している

日本での最大の課題は、2年前の調査に引き続き、「人材獲得競争」です。
ランク外だった「予算に対する財政的圧力」が7位に入ってきています。日本の特徴として、「従業員のパフォーマンス」、「給与や福利厚生の透明性」、「メンタルヘルス」が上位に挙げられます。「ダイバーシティ&インクルージョン」は日本においても、ランク外となっています。
図2:設問-貴社の福利厚生戦略に影響を与える主な課題は何ですか?(日本)

出典: 2021、2023、2025年 ベネフィットトレンドサーベイ(日本)

日本における最大の課題は、2年前の調査に引き続き、「人材獲得競争」で、少子化による労働力人口の減少によるものと見られます。全世界的なコスト意識の影響も受け、ランク外だった「予算に対する財政的圧力」が7位に入ってきています(図2参照)。

日本の調査結果の特徴として、「従業員のパフォーマンス」、「給与や福利厚生の透明性」、「メンタルヘルス」が上位に挙げられます。コストへの圧力が強まる一方で、従業員はパフォーマンスを上げていくことが求められています。従業員のモチベーション維持のため、福利厚生の透明性や価値の向上、形骸的なものではなく企業と従業員にとって実質的に価値がある福利厚生なのかが問われていると言えるでしょう。

尚、グローバル結果と同様、日本においても、「ダイバーシティ&インクルージョン」はランク外となっています。日本では、少子高齢化や労働力不足、経済停滞への対応が喫緊の課題となっており、DEIのような長期的な取り組みよりも、目先の経済成長や生産性向上が優先される傾向にあります。

5. 各企業の優先順位の変化

日本企業においても、ファイナンスの重要性は上がっている

2025年の調査では、今後3年間の福利厚生戦略における優先順位事項として、日本においてもファイナンスと従業員体験が優先される結果となっています。
ファイナンスの重要性が高まっており、コスト制約の中で従業員体験の価値を高める、という日本の企業の意欲が見られます。
図3:設問-今後3年間の組織の福利厚生戦略において、以下の優先事項はどの程度重要ですか?(日本)

今年度2025年の調査においては、全世界では今後3年間の、福利厚生戦略における優先順位事項としてファイナンス(2023年:1位)と従業員体験(2023年:4位)が優先事項である、という結果となりました。2023年の調査から連続1位となったファイナンスですが、やはりコスト制約がある中で、従業員のパフォーマンスの向上とモチベーションの維持のため、価値のある福利厚生戦略が求められています。
日本においても同様に、ファイナンスと従業員体験が優先される結果となっています(図3参照)。

6. 福利厚生費の対応

日本においても、福利厚生費の再配分を行う予定の企業が増えている

日本は45%の企業が今後3年間で福利厚生費を「再調整していく」と回答しており、過去1年間(13%)に比して大きく伸びています。同様に、「変更なし」は過去1年間では58%ですが、今後3年間では29%と減少しています。
図4:福利厚生費の焦点(日本)

出典: 2025年 ベネフィットトレンドサーベイ(日本)

全世界では、57%の企業が今後福利厚生費を「再調整、再配分していく予定」であると回答し、17%のみが「変更なし」と回答しています。

日本は45%の企業が今後3年間で福利厚生費を「再調整していく」と回答しており、過去1年間(13%)に比して大きく伸びています(図4参照)。同様に、「変更なし」は過去1年間では58%ですが、今後3年間では29%と減少しており、日本においても、福利厚生の再配分の機運が高まっていることがみられます。

7. まとめ

新型コロナの影響により、企業業績は急速に悪化し、最近持ち直してきたとはいえ、福利厚生費を強化する企業は多くなく、今後3年間においても大半が「再分配または再調整」で福利厚生を魅力あるものに変えようとしております。

また、コロナ渦を経て企業の福利厚生自体も大きく変化しました。オフィス内での物理的な福利厚生の提供から、テレワークが普及したコロナ渦では社員間のコミュニケーションが大きな課題となりました。アフターコロナ、そして世界が目まぐるしく変化する現在では、企業それぞれの価値観を表現し人材を惹きつけ定着させ、かつ従業員のパフォーマンス向上に実質的に寄与する福利厚生を、コスト制約の強まる中で追求することが求められています。

WTWでは、難易度の増す人事部門の福利厚生の課題について、様々なソリューションを提供いたします。
企業が現在お持ちの各種福利厚生制度について、本来の導入目的を再認識し、単なる「制度の利用率」という尺度だけではなく、ターゲット層、従業員ニーズの洗い出しなど、自社戦略に沿った内容、活用であるかを見直すための支援をさせていただきます。

執筆者


シニアアソシエイト
Health & Benefits

日系損害保険会社の企業営業部門にて、大手日系企業のリスクの把握、TCORを最小化するソリューション、保険手配を提案。その後、外資系損害保険会社の営業推進部門にてEmployee Benefitの主力商品であるGLTD、GPAの販売促進を担当。WTWではH&BにてSales Promotion、外資系企業の従業員向け生損保商品、H&Bコンサルティングを担当。


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