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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

2023年ベネフィット・トレンド・サーベイ 結果概要 (アジア太平洋地域 & 日本)

執筆者 中島 明子 | 2023年11月14日

WTWでは、福利厚生戦略の今後の方向性、新旧の課題に対するソリューションの活用方法等を把握するため、隔年ごとにベネフィット・トレンド・サーベイ(福利厚生動向調査)を実施しています。本稿は、本年実施した調査のアジア太平洋地域(日本を含む)の調査結果の概要を取りまとめたものです。
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1. はじめに

企業は、福利厚生費用の高騰、優秀な人材の獲得・惹きつけ・定着の難しさなど、さまざまな課題に直面しています。メンタルヘルス、生活費の問題、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する配慮や福利厚生における包括性への注目の高まりにより、福利厚生戦略のかじ取りはかつてないほど困難になっています。

WTWの2023年ベネフィット・トレンド・サーベイ(福利厚生動向調査)は、福利厚生戦略の今後の方向性、新旧の課題に対する革新的なソリューションの活用方法、福利厚生の設計、財務、事務、分析の変更・導入方法を調査しています。この調査は2023年3月1日から4月14日にかけて実施され、アジア太平洋地域の14市場、1,746の企業(日本の参加企業65社を含む)からの回答を反映したものです。

本稿では調査結果の概要を以下の4つの観点から取りまとめています。

  • ベネフィット戦略に影響を及ぼす主要課題
  • ベネフィット戦略の重点分野
  • 企業の優先順位と従業員ニーズのギャップ
  • 多様性、公平性、インクルージョン (DEI)支援の取り組み

2. ベネフィット戦略に影響を及ぼす主要課題

アジア太平洋地域(AP)の調査結果によると、人材獲得競争とコスト上昇が、福利厚生戦略に影響を与える主要課題です。

  • アジア太平洋地域(AP)で、「人材獲得競争」は引き続き永遠の課題であり、前回調査(2021年)同様、企業の課題リストのトップに挙げられています。
  • 今回調査で2位に挙げられている課題は「コスト増」です。多くの国でパンデミックによる急激なインフレが発生し、過去10年間で最高の医療費上昇を記録するなど、コスト高が顕著になっています。
  • 3位は、前回同様「 柔軟な勤務体制」です。
  • 4位は「インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)への注力」で、前回調査から2つほど順位を落としているものの、アジア太平洋地域の企業のほぼ3分の1(31%)が挙げており、依然として上位にランクインしています。
「人材獲得競争」は引き続き永遠の課題であり、前回同様今回も企業の課題リストのトップに挙げられている。前回調査で2位は「I&Dへの注力」であったが、今回結果では「コスト増」となっている。

2021 Q:貴社の福利厚生戦略において、次の項目は、今後2年間でどの程度影響しますか?

2023 Q:貴社の福利厚生戦略に影響を与える重要なビジネス課題は何ですか?(3つまで選択してください。)

ソース:2021年、2023年ベネフィットトレンドサーベイ、AP

福利厚生戦略に影響を及ぼす主要な課題の変化

2021 Q:貴社の福利厚生戦略において、次の項目は、今後2年間でどの程度影響しますか?
2023 Q:貴社の福利厚生戦略に影響を与える重要なビジネス課題は何ですか?(3つまで選択してください。)

一方、日本参加企業65社の結果に目を移してみると、トップはAP全体と同様「人材確保競争」であり8割の企業で挙げています。次いで「柔軟な勤務体制」「I&Dへの注力」がトップ3の課題となっています。

3. ベネフィット戦略の重点分野

最も重要なベネフィット戦略の重要分野トップ3を尋ねたところ、アジア太平洋地域(AP)で半数以上の企業(56%)が「コスト計画」を挙げました。

  • 次いで、48%の企業が「ウェルビーイング」を挙げています。多様な従業員の生産性と回復力を確保するためには、従業員の感情的、社会的、身体的、経済的なウェルビーイングを高めるプログラムを重視しています。オーストラリア、台湾、タイなど、ウェルビーイングを最重要課題としている市場もあります。
  • 44%の企業が、「ベンチマーキングと市場動向」を挙げています。企業の44%が、厳しい労働市場において競争力のある福利厚生パッケージを提供するためにデータを活用することの重要性を認識しています。

一方、日本参加企業65社の結果をみると、トップ3に挙げられた課題は「ベンチマーキングと市場動向」「コスト計画」「ウェルビーイング」であり、AP全体でも重要分野トップ3と同様の結果となっています。

4. 企業の優先順位と従業員ニーズのギャップ

ところで、福利厚生について企業が考える優先順位と従業員のニーズや希望は必ずしも一致するとは限りません。本調査結果と、別途実施した従業員対象の意識調査(2022年 Global Benefit Attitude Survey) と比較してみると顕著な差がみられる分野があります。例えば、アジア太平洋地域(AP)で、「医療・健康に関する福利厚生」は62%の企業で重視していますが、従業員で重視しているのは3分の1程度です。一方、多くの従業員は長期的・短期的な経済的支援を求めていますが、10社に1社程度しかこの分野を重視していません。企業の優先順位と従業員ニーズのギャップがあることが分かります。

日本参加企業65社の結果からも同様の課題が見られます。「I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)」については3分の1の企業で重視していますが、従業員は5%に過ぎず、I&Dに関する啓蒙の必要性が示されていることが分かります。また、従業員の半数が重視している「定年後のプラン/長期的な経済状況」については10社に1社程度しか重視していません。 企業はこうしたギャップが生じた理由を見極める必要があります。差が生じた理由を見極め、ギャップを埋める必要性があります。

5. 多様性、公平性、インクルージョン (DEI)支援の取り組み

多様性(ダイバーシティ)・公平性(エクイティ)を重視したインクルーシブな職場づくりのため、様々な取り組みがされています。アジア太平洋地域(AP)で3分の1以上(35%)の企業がDEI目標の策定に着手しており、およそ5社に3社(57%)がDEIの視点から福利厚生の見直しを計画または検討しています。

日本参加企業65社の結果をみると、AP全体の動向と同様に3分の1以上(39%)の企業がDEI目標の策定に着手しています。また、半数近い企業(46%)で実際にDEIの視点から主要課題の理解を計画または検討中と回答しています。

最後に、従来の家族形態やメンバーシップ雇用を前提とした人事制度の見直しが進んでいます。等級制度や報酬制度の改定に伴い、福利厚生プログラムの見直しを検討されている企業も多いでしょう。福利厚生プログラムの見直しの際には、個々の制度のみに焦点を当てるのではなく、国内外の動向を踏まえた上で行うことが望まれます。

尚、結果サマリーの全体については、下記の「資料ダウンロード」セクションより補足資料をダウンロードしてご覧ください。

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2023年ベネフィット・トレンド・サーベイ (福利厚生動向調査)補足資料 PDF 1.4 MB
執筆者

ディレクター
ヘルス&ベネフィット

WTWにおいて福利厚生全般のコンサルティングに25年以上の実績を有する。M&Aにおける福利厚生・就業条件の統合、ウェルビーイング関連のプログラムの設計・実施支援を行う。
中央大学法学部卒  特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント
「職場のストレスチェック実践ハンドブック」共著(創元社)


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