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従業員ウェルビーイングの多面性と具体的施策

Health and Benefits|Total Rewards|Wellbeing
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執筆者 中島 明子 | 2022年7月12日

昨今、ウェルビーイングについてご質問・相談を受けることが多くなっています。「この頃よく聞くんだけど、ウェルビーイングって何?」「身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること、雲を掴む感じでピンとこない」「ウェルビーイング施策は従来の福利厚生施策とどこが違うの?」云々。 本稿では、ウェルビーイングの定義や様々な施策、施策の設計運営上の留意点をお話したいと思います。

ウェルビーイングとは?

先ず、「ウェルビーイング」という言葉が直接何かを表すものではなく、天気・景気と同様に、状態やメカニズムを説明するために人為的に構成された概念(構成概念)であるという点から始めたいと思います。つまり、関連する幾つかの要因から把握可能となるので、どのような要因に着目するかにより、定義も濃淡が生じます。冒頭の「雲を掴む感じでピンとこない」というコメントはある意味、的を射ている訳です。

そこで、ウェルビーイングの3つの類型をさらっと押さえておきましょう。

  1. 医学的ウェルビーイング(病気でない、医学的に良い状態)
  2. 快楽的ウェルビーイング(気分が良い、主観的な感情面から良い状態)
  3. 持続的ウェルビーイング(心身の潜在能力を発揮し、意義を感じ、周囲との関係の中でいきいきと活動している状態)

① を重視するのであれば、健康診断や人間ドック、ストレスチェック等の心身の状態を常に診断することが有効な施策となります。②を実現する手っ取り早い方法は、従業員に金券やポイントを配布することかもしれません。少なくとも「ハッピー!」と一時的に歓迎されるはずです。③持続的ウェルビーイングを向上させるのであれば、長期的な視野に立つ包括的な打ち手が必要になります。人生100年時代において着目すべきは、この「持続的ウェルビーイング」であることは議論の必要もないところでしょう。

「こういうプログラムなら我社でも既にあれこれ実施しているよ」というお声も聞こえてきそうですが、ここで重要なのは、個々のプログラムをバラバラに実施するのではなく、従業員のウェルビーイング向上として包括的にプログラミングすることです。実際、ウェルビーイングの各側面は常に絡み合い影響を与えあうので、単独で実施しても機能しづらく、個々のプログラムが統一的な方針に基づいて設計され、従業員に首尾一貫したメッセージを発信することです。

ウェルビーイングの多面的側面

上述したように、ウェルビーイングが構成概念である以上、どの要素を重視するかは、企業により、従業員グループにより、社会状況により、一定ではありません。ウェルビーイング施策を検討する場合、どの視点から整理するかが工夫のしどころです。

従来、弊社WTWでは以下の4つの側面から捉えることが基本でした。

Physical(身体的側面):健康なライススタイルを維持するために身体を管理し、不測の疾病にも適切に対処する。

Emotional(心理的側面):自身の感情やストレスをコントロールし、健全なメンタルヘルスを維持する。

Financial(経済的側面):自身の経済状況を把握、管理し、状況の変化にも対応できるようにする。

Social(社会的側面):相互に助け合える関係を構築し深めることで、課題や問題にうまく対処する。

そしてコロナ禍を経験した今、働き方の変化はグローバルな課題として重要性が増しており、上記4側面に加え、Workplace(職場・働き方の側面)が注目されています。また、実際の制度設計にあたっては、Social(社会的側面)における育児・介護支援を重視し、Family Support (家族支援)と置き換えたケースもあります。

以下は、各側面別の具体的施策例です。

ウェルビーイングを向上させる要因

さて、ここで冒頭の問いかけ「ウェルビーイング施策は従来の福利厚生施策とどこが違うの?」に立ち戻りましょう。

ウェルビーイングに関する理論は様々な研究・諸説がありますが、「PERMA理論」(Martin E. P. Seligman)が最も有名です。PERMA理論では、以下の5つをバランスよく満たすことがウェルビーイングの実現に繋がるとされています。

P:ポジティブ感情 (Positive Emotion)

E:エンゲージメント(Engagement)

R:関係性 (Relationship)

M:意味・意義(Meaning)

A:達成 (Achievement)

同じような施策でも、上記のような視点から検討してみるとウェルビーイング向上に貢献するかどうかが見えてきます。例えば、徹底した「禁煙プログラム」により禁煙率100%達成できれば健康経営としては大いなる成功事例です。しかしながら、仮に喫煙者が上司からの強力な説得により禁煙した場合、喫煙による健康リスクは低減しても、強制に屈したという無力感(ネガティブ感情)に陥るとしたら、本人のウェルビーイング向上に寄与したかは微妙なところです。個々の場面において個々の従業員のウェルビーイングを充足させることは困難ですが、PERMAを意識してた設計・運用が望まれます。

また、モチベーションの理論としてよく知られる「自己決定理論」の3つの要素が従業員のウェルビーイング施策を考える上でも実践的かつ有効かと思います。以下の3つの根本的欲求が満たされたとき、ウェルビーイングが増幅するとされています。

  1. 自主性・自律性 (Autonomy):
    自分が人生の主体者であり、行動を自分で選びたい
  2. 有能感 (Competence):
    自分のしていることに自信を持ちたい
  3. 関係性 (Relatedness):
    自主性や有能感を持ちながらも、親密で安定した人間関係を保ちたい

以下は、コンプライアンス対応から取り組んだ時間管理施策を、職場・働き方のウェルビーイング向上の視点で捉えなおし、社員の自律的な活動へと発展させているケースとして示唆に富んでいます。

人生100年時代のウェルビーイング

社会状況として、終身雇用制の下に恩恵的に与えられてきた福利厚生制度を永続的に維持するのが難しくなってきたことも看過できません。今後、企業が従業員に提供できるのは、物理的な生活の保障(ハード面)ではなく、自律的に自分の生活をコントロールするための知識・ツール(ソフト面)にシフトせざるを得ません。

例えば、お金に関する従業員教育として、最近は「フィナンシャルウェルビーイング(FWB)セミナー」が注目されています。FWBセミナーは、全社員向けの「確定拠出年金に係る一般的な投資教育(継続教育)」や、定年が近い中高年向けの「退職金運用セミナー」「セカンドキャリア支援セミナー」などを代替・補完するものです。

以下は、FWBセミナーの内容の一例です。人生100年を見据えて、単にお金に関する基本的な知識(使い方・貯め方・投資の仕方)を伝えるだけでなく、各人の人生設計において「お金の管理を自分でも出来そう。やってみよう」という感覚を持って頂くことが鍵となります。

表2.フィナンシャルウェルビーイングの施策例
セッション チャプター 内容
I
お金との付き合い方を学ぶ
オープニング 本セミナーの目的、運営について
フィナンシャル ウェルビーイング(FWB) ウェルビーイングの4つの側面
FWBは何故大事なのか?
「老後資金2000万円不足する」ってホント?
上手なお金の管理方法 先ずは、自分の支出傾向を認識する
いざという時の資金確保は充分ですか?
支出管理の実践的方法
賢いお金の借り方、返し方 負債の良し悪し、適切な借入金とは? お金を借りる時の留意点
負債を減らすためのヒント
ライフキャリアビジョン 自身のライフキャリアビジョン(長期的な人生・仕事において自分自身のなりたい姿)やそれを可能とする費用・貯蓄目標を考える
自社のプログラムを活用する① 団体生命保険、GLTD、EAP

賢いお金の貯め方を学ぶ
短期的な資金を調達するための貯蓄・投資
退職後の長期的な資金を確保するための貯蓄・投資
日本の公的年金制度をザックリ見てみよう
自社のプログラムを活用する②  退職給付、DC投資セルフラーニング
クロージング

このセミナーは弊社退職給付部門のチームが主体となり設計していますが、単なるフィナンシャルセミナーではなく、ソーシャルな側面(各人のライフキャリアビジョン作成)を組み込み、人生100年時代の持続的なウェルビーイング実現を支援するものです。

まとめ

本稿では、持続的ウェルビーイングの実現に向けて、ウェルビーイングの定義・考え方・具体的な施策等の概要を述べてきました。ポイントとしては;

  • ウェルビーイングには多面性があり、ウェルビーイング施策を検討する場合、どの視点から整理(重視)するかを最初に定めておく。
  • ウェルビーイングの各側面は常に絡み合い影響を与えあうので、単独で実施しても機能しづらく、個々のプログラムの統一的な方針に基づいた設計が重要。
  • 同じような施策でも有効性は異なる。個々の施策の設計においては、ウェルビーイングを向上させる要素を充足させるかの検証が必要。
  • 従業員が「受給者」から「自律的に活用する利用者」となるための知識やツールの提供がウェルビーイング施策の要となる。

上述を踏まえ、実際にウェルビーイング施策を推進する際には「ウェルビーイングが個別性の極めて高いものである」という点も大切です。別途「一人ひとり異なるウエルビーイング」というテーマでお話をしたいと思います。


参考図書

マーティン・セリグマン著「ポジティブ心理学の挑戦」(ディスカヴァー・トゥエンティワン) 
イローナ・ボニウェル著「ポジティブ心理学が1冊でわかる本」(国書刊行会) 
渡邊淳司/ドミニク・チェン監修・編著 「わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために-その思想、実践、技術」(BNN)

執筆者

ディレクター 、ベネフィットアドバイザリー
ヘルス&ベネフィット部門

M&Aにおける人事デューデリジェンス、人事・福利厚生制度統合、各種サーベイ設計等、多岐に亘るプロジェクト経験を有する。また、多様なワークショップにおけるファシリテーション経験も豊富。特定社会保険労務士 中央大学法学部卒。 著書『職場のストレスチェック実践ハンドブック』 (創元社)


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