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特集、論稿、出版物 | 企業リスク&リスクマネジメント ニュースレター

多国籍企業が取引信用保険にキャプティブを活用する理由

執筆者 Vittorio Pozzo | 2025年10月21日

本稿では、取引信用保険プログラムでキャプティブ保険を利用することの利点と課題について考察します。
Captive and insurance management solutions|Corporate Risk Tools and Technology|Credit and Political Risk|Risk and Analytics
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取引信用保険は、顧客による未払いのリスクから企業を守るための重要な手段です。これには、納品済み商品の支払いに関する倒産リスクや単純な未払いだけでなく、納品前の費用、信用状の不履行、前払い済み商品の未納なども含まれます。現在複数の地域で見られる厳しいマクロ経済および政治状況は、倒産や債務不履行のリスクを高める可能性があります。取引信用保険は、包括的なリスク管理プログラムの一環として、企業がこうした重大なビジネスリスクに対応するための補償を提供します。

過去数年間、世界的に取引信用保険の保険金請求状況は非常に穏やかでした。しかし、今後1〜2年の見通しは厳しい状況が予想されており、倒産や支払い遅延が大幅に増加すると見込まれています。損失の増加に伴い、取引信用保険の引受保険会社は保険の引受に慎重になりつつあります。これにより、保険会社が取引信用保険の補償額を縮小したり、引受基準を厳格化する可能性があり、企業が安定的に保険付保を継続することがより困難になる可能性があります。その結果、企業は安定的な保険料及び保険条件で取引信用保険を付保するための手段を模索する必要性が出て来る可能性があります。

顧客による未払リスクを管理するための新たなアプローチのひとつが、キャプティブ保険会社の活用です。キャプティブとは、被保険者となる企業が、保険会社を自社の子会社として所有・管理するものであり、その主な目的は親会社のリスクを引き受けることです。キャプティブの活用は、保険マーケットの変動に対応するための理想的な手段の一つであり、取引信用保険プログラムに対する管理を強化することができます。実際、売上高ベースで保険引受を行う保険会社をキャプティブの元受保険会社として活用する企業が増加しています。キャプティブ(通常、ピュア・キャプティブまたはセル・キャプティブ)は、元受保険会社に対して再保険引受によるサポー トを提供することで元受保険会社のキャパシティを改善・拡張し、リスクの総コストを削減します。

キャプティブは、取引信用保険において、必要に応じて再々保険を活用しながら直接保険者として機能することも、元受保険会社に対して補償を提供する再保険者として機能することも可能です。キャプティブの保険引受形式は、企業グループのニーズ、ライセンス権限、所在地、事故発生履歴などによって異なります。キャプティブは、年間累積支払限度額までのクレジットリスクをカバーし、それを超える部分を再々保険を活用してヘッジすることもできます。あるいは、元受保険会社が保険限度額を設定し、キャプティブから再保険を購入する形もあります。また、ポートフォリオ全体または買い手ごとの免責金額に基づいて保険をかけることができ、親会社および子会社の双方に財務的・業務的なメリットをもたらします。

取引信用保険におけるキャプティブ活用のメリット

  1. 01

    コスト削減

    キャプティブを活用する最大の利点のひとつは、コスト削減の可能性です。企業が自社のリスクを自ら保有することで、企業外部者である保険会社への資金流出を回避し、保険会社の保険引受利益を自社に留保することができます。さらに、キャプティブを活用することで、リスクの総コストをより適切に把握・削減することが可能になります。

  2. 02

    リスクのカスタマイズと分散

    キャプティブは高い柔軟性とカスタマイズ性を提供します。企業はキャプティブを活用する事で自社のニーズに合わせて補償内容を設計できるため、ローカル企業のみならず、リスクプロファイルが多様な多国籍企業にとって特に有益です。さらに、取引信用保険をキャプティブに組み込むことで、通常は財物保険や第三者賠償責任保険などに偏りがちなキャプティブのリスクポートフォリオを分散させることができます。

  3. 03

    リスク管理の向上

    キャプティブを活用することで、企業はリスク評価や保険金請求のプロセスを集中管理でき、クレジットリスクをより効率的かつ効果的に管理することが可能になります。また、ローカルおよびグローバルの要件を満たす自家保険の仕組みを提供することで、保有リスクの管理も改善されます。

  4. 04

    再保険市場へのアクセス

    キャプティブは再保険市場への直接アクセスを可能にし、大規模で甚大な損失への対応力を高めることができます。

  5. 05

    保険コストの安定性の確保

    キャプティブを活用することで、親会社のみならず、企業グループ内で取引信用保険の保険料を負担すべき事業子会社又は販売子会社が、一定の保険料を継続的に支払う仕組みを構築できます。これにより、事故発生に起因した保険料の変動を抑え、取引信用保険を付保する各子会社の財政状態及び経営性成績を安定させ、当該子会社間の売掛債権リスクの管理や保険料配分のコントロールが向上します。

取引信用保険におけるキャプティブ活用する際の注意点

  1. 01

    初期設立コスト

    キャプティブ保険会社の設立には、多くの費用と時間がかかる可能性があります。企業は、キャプティブ設立やキャプティブ設立地の規制対応にリソースを割く必要があります。

  2. 02

    規制上の障壁

    キャプティブは規制当局の監督を受けており、その内容は管轄地域によって大きく異なります。これらの規制は複雑であり、規制に適切に対応するためには専門的な知識が求められる場合があります。

  3. 03

    資本要件

    キャプティブには、潜在的な損失をカバーするための資本が必要です。従って、企業は自社の資金をキャプティブに投入する必要があります。

  4. 04

    財務的損失のリスク

    キャプティブはコスト削減やその他のメリットを提供する一方で、企業を財務的損失のリスクにさらす可能性もあります。キャプティブが大きな保険金請求を受けた場合、親会社は損失を補填するために追加の資本を投入しなければならない可能性があります。

  5. 05

    業務の複雑性

    キャプティブ保険会社の運営には、追加の業務負担が伴います。企業は、キャプティブおよび関連するリスクを効果的に管理するための専門知識とリソースを備えている必要があります。


キャプティブを取引信用保険プログラムに活用することには、コスト削減、柔軟な保険設計、リスク管理の向上など、さまざまな利点があります。こうしたアプローチを検討する企業は、キャプティブ活用が自社の取引信用保険のニーズに適しているかどうかを判断するために、メリットとデメリットを慎重に比較検討する必要があります。最初のステップとして、キャプティブ導入による財務的な効果を見極めるために、キャプティブの導入可能性調査(フィージビリティ・スタディ)を実施することを推奨します。

この調査では、企業がキャプティブでどの程度のリスクを引き受ける意思と能力があるか、また保険会社から購入すべき保険の免責金額や支払限度額をどう設定するかを明確にする必要があります。導入可能性調査は、親会社がキャプティブ保険会社の導入を進めるかどうかを判断するための定性的・定量的な分析を提供します。また、ブローカーは、従来型の取引信用保険プログラムからキャプティブを活用するプログラムへの移行を支援し、その複雑さを軽減することができます。

キャプティブを活用した取引信用保険ソリューションに関する詳細は、下記担当者までお問い合わせください。

執筆者


Director, Europe & Great Britain
Captive Advisory Team
Alternative Risk Transfer

お問い合わせ


関口 大樹
リスク & アナリティクス
キャプティブ
アソシエイト ディレクター

高橋 晋人
ヘッド オブ トレードクレジット
クレジットリスクソリューションズ

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