これまでの20年間は、紛争、テロ、ブレグジット、世界的な金融危機、パンデミック、インフレなど、不確実性と変動性に満ちた時代でした。こうした予測不能な状況に対し、キャプティブを活用して各種の対応を行ってきたこれまでの20年を振り返る今の段階こそ、企業グループのリスク対応力強化に向けたキャプティブ活用の最適化を再検討し、次の20年に向けたリスクマネジメント戦略を構築する良い機会であると考えています。
今後、キャプティブを活用したリスクマネジメントのメガトレンドはどのような形になるのか?そして、キャプティブを企業のリスクマネジメントシステムの一環として活用しているリスクマネージャーやCFOは、将来に向けた企業のレジリエンスと企業価値を高めるためにどのように対策を取る必要があるのか?
私たちは今後のキャプティブ活用に向けた4つのメガトレンドを検討し、キャプティブをエンタープライズリスクマネジメント(ERM)システムの一部として活用している企業が、常に先進的な戦略を実施するために必要となる具体的な行動指針を提案します。
そして高度な分析技術が、気候変動を含む将来的に影響の大きいリスク要因を効果的に特定・管理・最適化することを可能にさせるものと考えています。
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近年、多くのキャプティブ活用企業においては、年単位からより長期的な視点でのリスク管理への移行が進み始めています。今後、キャプティブを活用するリスクマネージャーは、数十年単位の時間軸でリスクを管理することが求められるようになると考えています。
この変化に適切に対応した効果的なリスクマネジメントを実現するには、統合型のアンダーライティングソリューションや、データを一元化できるデジタルプラットフォームへのアクセスが不可欠です。これにより、複数リスクに跨ったより精緻なリスク管理が可能になり、リスクファイナンスの効率性を年単位の視点ではなく長期的な視点で評価を行うことにより企業グループの持続的成長を支援する事が出来ます。
デジタル化されたキャプティブプラットフォームを活用することで、リスク分析・定量化ツールとの統合も容易になります。これは、財産や賠償責任のリスク、気候変動による物理的リスク、さらには広範なリスク最適化に関するツールにも当てはまります。
この流れは、次の2つのメガトレンド:気候不確実性への対応と、データ主導型のリスク最適化の活用につながります。
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キャプティブを活用したリスクマネジメントプログラムを短期的・戦術的なものから長期的・戦略的なものへと移行することで、気候変動に関連するリスクをより効果的に管理できるようになります。
現在の企業は、自社事業の気候変動への影響を減らすことと、気候変動が物理的な拠点や生産資産に与える影響を管理する事の二つの課題に同時に直面しています。すなわち、気象変動リスクへの対応策として、企業は環境負荷を低減するためにビジネスモデルを適応させると同時に、建物や生産資産のレジリエンスを高める必要があり、従来のリスク対策としての保険は十分機能しない可能性があります。こうした保険化不能なリスクや、リスクと補償内容のギャップをキャプティブプログラムの一環として取り組むことで、将来的に従来の保険市場へのリスク移転を可能にするためのリスク情報の蓄積が進むとともに、その間に備えとしてキャプティブ内に準備金を積み立てる仕組みが得られます。
企業のレジリエンスを高めるための包括的な気候リスク管理戦略の策定は、キャプティブマネージャーやキャプティブの親会社の経営陣にとって優先事項であるべきです。これらの戦略を成功裏に設計するには、最新の科学的知見を活用したデータ分析やモデリングが必要です。
リスクマネージャー及び経営幹部は、気候リスクを特定・定量化するための、より高度な手法に注目するようになると予想されます。これは、厳格化する気候関連の情報開示要件に対応するためだけでははく、気候リスクを定量化することで、戦略の優先順位やそのリスクを軽減するために必要な投資について、現実的な議論が可能になります。
また、従来の保険市場では十分にカバーされない気候関連リスクに対応するため、パラメトリック保険などの新なリスク移転手法を検討するキャプティブ活用企業が増えると予想されます。
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過去20年間で、先進的なデータ分析はリスク評価、保険引受、保険金請求管理のあり方を大きく変革してきました。次なるリスク管理の変革に備えるために、キャプティブはより深く、より広範なデジタル化を進めるべきと考えています。これにより、今後数十年にわたって進化するAIや機械学習技術に適応し、リスク評価・財務戦略・リスク管理に関する意思決定をより高度に実施できるようになります。
現在、先進的な分析ツールを活用することで、キャプティブ活用企業はリスクの実態をリアルタイムで把握できるようになり、新たなリスクの特定・評価、潜在的な影響の定量化、そしてより精緻にカスタマイズされたリスク軽減戦略の策定が可能になります。新たなリスクと分析能力の進化が、リスク管理のさらなる高度化を推進する原動力となるでしょう。
今、堅牢なデータ分析機能や予測モデリングへの投資を行うことで、より積極的かつ戦略的なリスク管理姿勢を築くことができます。こうした視点は、リスクコストをより広範かつ長期的な戦略の中で捉えることにもつながります。
データ主導型の意思決定最適化のフレームワークは、キャプティブを活用したリスクマネジメントプログラムにおいて最も効率的かつ効果的な選択肢を検討するための手段として今後ますます重要性が増すと考えています。特に、コーポレートガバナンスが経営陣の意思決定や長期的な企業価値向上に対する強い責任を課す背景の中ではその役割は重要になると考えられます。
信頼性が高く、監査可能で、証拠に裏付けられた意思決定最適化手法を活用できれば、リスクマネージャーは財務の健全性を高めるのみならず、リスクファイナンスアプローチを見直し、新たな企業価値向上の方法を発見出来る可能性が高まります。
今後は、ビジネスに対するリスクを一元的に評価する視点がますます重要になります。これは、事業投資の判断と同様に、リスクファイナンスの選択肢にもポートフォリオ的な視点を適用するという考え方であり、リスク許容度の枠組みの中でリスクファイナンスの評価軸及び目標を定義し、組織の目標に沿った財務的レジリエンスを強化する方法です。
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過去20年間で、キャプティブは従来の財物保険や賠償責任保険から、サイバーリスク、サプライチェーンリスク、従業員福利厚生などの新たなリスク領域へと活用範囲を広げてきました。
今後を見据えると、グローバル企業が、全世界で統一された従業員福利厚生プログラムにおける資金の有効活用などの目的でキャプティブを活用するというトレンドが勢いを増していくと予想されます。
こうした取り組みは、効果的な人材リスク戦略を支えると同時に、企業のダイバーシティ、公平性、インクルージョンに関する目標の達成にも貢献します。たとえば、複数国に展開する企業がキャプティブを活用して、グループ医療保険の年間限度額を引き上げたり、現地市場では一般的に提供されていない福利厚生を追加したり、または多様な家族構成や扶養者に対応した、より包括的な福利厚生制度の構築が進むものと考えています。
WTWのグローバルなキャプティブ専門家ネットワーが、貴社のリスクをよりスマートに管理・最適化する方法をアドバイス致します。また、WTWの実践的なインサイトにも今すぐアクセス可能です ― 『Outsmarting Uncertainty(不確実性を乗り越える)』というリスク管理の専門家によるウェビナーをオンデマンドでご視聴いただけます。