監査役は、取締役会や経営陣の職務の執行の適法性を監査する独任制の機関であるが、昨今のガバナンス改革の潮流のもと、2015年制定(2018・2021年改訂)のコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)で以下3つの取組みが要請されている。
CGコードにより監査役に期待される取組み
| CGコード | 取組み | 内容 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 原則4-4.
原則4-5. |
ステークホルダー視点での監査 | 取締役の職務の執行の監査等に際しては、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場で適切な判断を実施 |
| 2 | 原則4-4. | 積極的・能動的な スタンスでの発言 | 自らの守備範囲を過度に狭く捉えることなく、能動的・積極的に 権限を行使し、取締役会や経営陣へ適切に意見を発信 |
| 3 |
補充原則 4-4① |
社外取締役との 情報連携 | 社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力 を強化できるよう、社外取締役との連携を確保 |
上記1・2は、CGコードが監査役に対し、ステークホルダー視点に立った、より積極的・能動的スタンスでの監査を要請していることを示している。そして、それを実現するための取組みとして、上記3で示された「社外取締役との情報連携」が有用であるものと筆者は考える。なぜなら、上記1の「ステークホルダー視点での監査」は、「株主の代理人」である社外取締役との対話の充実化が出発点となるものであり(後述Ⅰをご参照)、同じく上記2の「積極的・能動的なスタンスでの発言」も、社外取締役から多様な意見を聴取することで様々な課題認識や気づきが得られ、意見発信のフィールドも広がっていくからである。ただし、それらは「社外取締役との情報連携」が、コードで書かれたような「社外取締役による情報収集」に止まることなく、監査役からも社外取締役の意見・提言を積極的に引き出していく「双方向の対話」となることが前提となる。
この「社外取締役との情報連携」の主な担い手は常勤監査役であるが、その効用を最大限に引き出し、監査役監査の実効性向上に繋げていくために意識すべきポイントとして、「外部の視点からフィードバックを得るための情報提供」「『間接的』な議決権行使のアプローチ」「経営者指名・報酬領域への高い感度」の3つが挙げられる。以下、各々の概要をご説明したい。(注:いずれも監査役会設置会社を想定したものであり、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社には必ずしも適応するとは限らない点をご了承願いたい。)
Ⅰ.外部の視点からフィードバックを得るための情報提供
グループガバナンス監査等に係る社外取締役との情報連携において、社外取締役から有意なフィードバックを得るためには、監査役からのリスク認識等の根拠・背景等も含めた十分な説明が必要
昨今、大手企業を中心に、本社でなくグループ会社で不祥事が生じる事例が散見される。それが海外グループ会社であれば、当該国又は域外適用の法令に基づくペナルティが課され、経営への影響も甚大なものとなり得る。そのためグループ本社主導の「企業集団の内部統制システム(グループガバナンス)」の監査が、同システムの監督責任を負う取締役会でも特に重要視されている。
監査役と内部監査部門との連携による当該監査では、経営陣による組織態勢・枠組みの構築・運用プロセスは勿論のこと、それを支えるグループ各社から親会社への適時適切なレポーティング、グループ各社の規模・特性に応じたリスクマネジメント、及びグループ各社の取締役・従業員による法令等遵守態勢について、横串を通したリスクベースでの効率的な検証を行うことが求められている。そのため本社の常勤監査役におかれては、本社経営トップとコミュニケーションをとりつつ、日常的に2つのルート、即ち、①グループ主要各社の監査役との連携(各社の経営課題を「縦軸」で深掘)、及び②本社の内部監査部門との連携(グループ横断的なリスクの所在と対応状況を「横軸」で把握)を通じた情報収集を行い、そこで見出されたリスク認識等をもとに監査計画を策定・遂行されているものと考える。
しかし昨今では新たに、「社内の常識は世間の非常識」と表現されるような組織内では気づかぬ問題点や、グループの垣根を越えたバリューチェーン上のリスクの存在等も注目されるところ、社外者の視点も加味したレビューが望まれるケースも増えている。そのための機会のひとつとして「社外取締役との連携」*が挙げられるが、一般的に社外取締役は業務執行に係る情報に必ずしも通じていないところ、有意なフィードバック(外部の視点からの気づき・意見・示唆)を得るためには、まず監査役側からのグループガバナンスの現状やリスク認識に係る十分な情報提供が必要になるものと考える。その際には、監査役としての上記の「縦軸」「横軸」のネットワークを意識した、リスク認識に至る根拠・背景等の補足説明も行えば、社外取締役の理解もより一層深まるであろう。その結果として有意なフィードバックが得られれば、それらを監査計画のプロセスやスコープに反映することで、「ステークホルダーの視点での監査」に一歩近づき、株主からの受託者責任の遂行にも繋がり得るものと考える。
