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特集、論稿、出版物 | 企業リスク&リスクマネジメント ニュースレター

「地政学リスク」への企業としての対応アプローチ

実践可能なアプローチを5つのステップで解説

執筆者 桐原 憲昭 | 2025年10月22日

本レポートは、複雑化する地政学リスクに対し、企業が実践可能な5ステップの対応アプローチ(リスク事象抽出→影響因子構造化→シナリオ作成→バリューチェーン分析→戦略決定)を提示する。地経学的対立を事例に、抽象的リスクを具体的課題に変換し、適応力重視の経営への転換を提唱している。
Credit and Political Risk
Geopolitical Risk

ポイント

  • 地政学リスクへの体系的アプローチ: 政学的対立という複雑なグローバルリスクに対し、5つのステップ(リスク事象抽出→影響因子構造化→シナリオ作成→バリューチェーン分析→戦略決定)で実践的に対応する方法論を提示する。
  • 地経学的対立の構造的変化: 米中対立や経済安全保障の重視により、関税・制裁・投資規制等の経済的手段を用いた国家間競争が常態化。これは一時的現象ではなく、企業が適応すべき新たな競争環境として認識が必要である。
  • 要因分解による複雑性の把握: 複雑系である地政学リスクを、関連する影響要因に分解することで、抽象的な脅威を具体的で対処可能な課題に変換し、見落としがちな間接的影響も把握可能にする。
  • 業界から企業固有リスクへの落とし込み: 業界全体のシナリオを企業のバリューチェーンに適用し、調達・製造・販売の各機能への具体的影響と、自社固有の脆弱性の要因を特定する。
  • 適応力重視の経営への転換: 完璧な分析より、迅速な実行と継続的学習が重要。不確実性の高い時代では、予測正確性ではなく環境変化への適応力こそが、企業の競争力の源泉となる。

はじめに

地政学とは、国際関係や外交政策を、地理的要因と政治的要因の相互作用から分析・理解しようとする学問であり、地政学リスクとは、国際関係や地域情勢から生じる、ビジネスや経済に影響を与える可能性のある危険や不確実性のことを指す。ちなみに最近では、地経学という用語も見聞きするようになったが、こちらは経済的手段を用いて、地政学的目標を達成しようとする考え方である。

近年の地政学リスクは、多岐にわたる要因によって複雑化している。米中間の技術と貿易に関する緊張、ロシアのウクライナ侵攻、及びその西側諸国との関係悪化、さらに中東地域の安定を脅かすイランの核問題や、イスラエルとパレスチナ間の対立が深刻となっている。これらの事象は、直接的に経済、貿易、エネルギー供給に影響を与え、国際ビジネスにおけるリスクを増大させている。

このように地政学的緊張は、国際市場での予測不可能性を高め、企業のリスク管理戦略に新たな課題をもたらしている。本稿では、地政学リスクへの企業としての対応アプローチを、実践可能な5つのステップに分けて考えていくことにする。

地政学リスクの特徴

地政学リスクとは、簡単に言えば「国と国*[1]との関係から生まれる問題が、企業や経済に悪影響を与えるかもしれない危険性」である。地政学リスクの特徴を、図表1にまとめる。

図表1:地政学リスクの特徴

主なリスク項目と解説
項目 解説
多極化の加速 米国の相対的な影響力低下と中国の台頭により、G7やBRICSなどの国家グループ間の力関係が複雑化している。例えば、ロシアのウクライナ侵攻後の国際社会の分断や、中東におけるサウジアラビアとイランの和解など、従来の同盟関係にとらわれない外交が増加している。
地域紛争の増加 ロシアのウクライナ侵攻の長期化、イスラエル・パレスチナ紛争の激化、南シナ海や台湾海峡での緊張など、局地的な紛争が世界各地で発生・継続している。これらの紛争は、グローバルなサプライチェーンや資源供給に影響を与え、世界経済にも波及している。
経済安全保障の
重視
半導体や希土類などの戦略物資の確保、重要技術の輸出管理、外国投資審査の厳格化など、経済と安全保障を一体的に捉える政策が各国で強化されている。米中対立の文脈で、技術覇権をめぐる競争が特に顕著である。
国際機関の
機能不全
国連安全保障理事会の改革停滞、WHO の パンデミック条約交渉の難航、WTO 上級委員会の機能停止など、主要な国際機関が十分に機能していない状況が続いている。これにより、グローバルな課題に対する効果的な対応が困難になっている。
非国家主体の台頭 テロ組織の活動が依然として脅威となる中、民間軍事会社(PMC)の影響力拡大が注目されている。例えば、ロシアのワグネル・グループのアフリカでの活動拡大や、サイバー攻撃を請け負うハッカー集団の存在感増大などが挙げられる。

これらの要因が複雑に絡み合い、従来の国際秩序や安全保障環境に大きな変化をもたらしている。この状況下で、各国政府や国際社会にとって、リスク管理と危機対応の重要性がさらに高まってきている。

地政学リスクへの対応アプローチ全体像

まず基本的な考え方として、複雑系であるリスク事象を理解するには、要因分解をしていくことが基本アプローチとなる。要因分解により、複雑な対象をその構成要素に分解し、各要素がどのように関連し合っているかを検討することで、複雑な事象の背後にある因果関係や相互作用を明らかにし、全体像を理解しやすくなる。ここでは、基本アプローチを5つのステップに分けて解説していく。(図表2)

図表2:対応アプローチの全体像

要因分解の5つのステップ
ステップ# 内容
1. リスク事象の抽出 対象となる複雑なリスク事象を抽出することである。さまざまな機関から発行されるリスクリポートのリスク視点が参考となる。
2. 影響因子の構造化 リスク事象別に対象とするリスク事象がもたらす影響について、その要因を分解し構造化を行う。
3. リスクシナリオ作成 対象業界について潜在的なリスクがもたらす影響を具体的に想定する。
4. バリューチェーン分析 対象企業のバリューチェーンを描くことで、対象リスクが企業活動に及ぼす影響を個別に関連付けする。
5. 戦略的意思決定 これまで検討してきた結果から、企業として何をすべきかを議論し、先手を打った行動に繋げる。

以上のようなステップを踏むことによって、一企業では対応の難しい地政学リスクに代表されるグローバルリスクであっても、要因を個別に分解していくことによって、自社事業との関連や対応策が見えてくる。では以降、各ステップの詳細を見ていくことにする。(続く)

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脚注

  1. 最近の中東地域における紛争は、必ずしも国家間とは限らず、非国家主体が立ちはだかる。 記事に戻る

執筆者


シニアリスクマネジメント コンサルタント
リスク&アナリティクス

大学院修了(工学)後、外資系ITベンダー、日系シンクタンク、人材育成・組織変革コンサルティング会社にて、企業幹部・管理職向けのビジネスリーダー育成及び業務プロセス改革支援に従事。現在は、企業のリスクマネジメントの高度化(ERM/BCM)に向けた組織変革と事業継続計画の立案を支援。


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