分断化する世界における企業リスク管理の新たな指針
世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する「グローバルリスク報告書」の2025年版[1]について、日本語要約版(考察含む)を作成した。本報告書は、世界が直面する重大なリスクを包括的に分析した、企業経営者にとって必読の資料である。本報告書は、900人以上のグローバルリーダーからの回答を基に、33のグローバルリスクを分析している。短期(2年)および長期(10年)の視点から、世界が直面する課題を明らかにしている。
最も深刻なリスクとして、「誤報と偽情報」が2年連続で1位となった。AIによる虚偽情報の大規模生成・拡散への懸念が高まっている。次いで「極端な気象事象」、「国家間武力紛争」が上位を占め、地政学的緊張と環境問題が現実の脅威として認識されている。
環境リスクが上位を独占し、「極端な気象事象」が1位、「生物多様性の喪失とエコシステムの崩壊」が2位となっている。また、「AIテクノロジーの悪影響」が6位に浮上し、技術革新がもたらす新たな課題への警戒感が示されている。
| 順位 | 今後2年間 | 順位 | 今後10年間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 誤報と偽情報 | 1 | 極端な気象事象(洪水、熱波など) |
| 2 | 極端な気象事象(洪水、熱波など) | 2 | 生物多様性の喪失とエコシステムの崩壊 |
| 3 | 国家間武力紛争(代理戦争、内戦、クーデター、テロなど) | 3 | 地球システムの重大な変化 |
| 4 | 社会的分極化 | 4 | 天然資源の不足(食料、水) |
| 5 | サイバー諜報と戦争 | 5 | 誤報と偽情報 |
| 6 | 汚染(大気、土壌、水など) | 6 | AIテクノロジーの悪影響 |
| 7 | 不平等(富、所得) | 7 | 不平等(富、所得) |
| 8 | 非自発的移住または避難 | 8 | 社会的分極化 |
| 9 | 地政経済的対立(制裁、関税、投資審査) | 9 | サイバー諜報と戦争 |
| 10 | 人権および/または市民の自由の侵食 | 10 | 汚染(大気、土壌、水など) |
日本は世界でも最も深刻な超高齢化社会に直面している。年金制度の持続可能性、介護人材の慢性的不足、労働力人口の減少による経済成長への影響など、複合的な課題への対応が急務である。
米中対立の狭間で、日本企業は貿易・技術移転、サプライチェーンの再構築、エネルギー・食料安全保障など、多面的なリスク管理が求められている。特に台湾有事への備えは、経済活動に重大な影響を及ぼす可能性がある。
AIによる労働市場の構造変化、デジタル化への適応、サイバーセキュリティの強化など、技術革新への対応が企業の競争力を左右する。誤報・偽情報の拡散による社会的分断への対処も重要な課題である。
採用コストの急上昇、外国人材活用、世代間ギャップへの対応、高齢従業員の再教育など、包括的な人材戦略の構築が必要である。
レガシーシステムの更新、クラウド移行、AI導入、データ統合基盤の整備など、デジタルトランスフォーメーションの加速が不可欠である。同時に、DX人材の確保・育成も重要な経営課題となっている。
原材料・部品の供給途絶リスク、調達コストの上昇、代替調達先の開拓など、サプライチェーン全体での脆弱性への対応が求められている。
省エネ設備への更新、再生可能エネルギー導入、環境配慮型製品開発など、持続可能な経営への転換が急務である。
本報告書では、グローバルリスクを企業経営に活かすための5ステップアプローチ(リスク事象の抽出→影響因子の構造化→リスクシナリオ作成→バリューチェーン分析→戦略的意思決定)を提示している。抽象的なグローバルリスクを、自社の文脈に翻訳し、具体的な行動計画に落とし込む能力が、不確実な経営環境における競争力の源泉となる。
本報告書は、単なるリスクの羅列ではなく、企業が先手を打って対策を講じるための重要な示唆を提供している。世界が複数の重大な課題に直面し、それらが相互に関連し合って状況を複雑化させている今、統合的なリスク管理アプローチが企業の持続的成長の鍵となるであろう。
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大学院修了(工学)後、外資系ITベンダー、日系シンクタンク、人材育成・組織変革コンサルティング会社にて、企業幹部・管理職向けのビジネスリーダー育成及び業務プロセス改革支援に従事。現在は、企業のリスクマネジメントの高度化(ERM/BCM)に向けた組織変革と事業継続計画の立案を支援。