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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

M&Aに際する経営幹部リテンションの最近の傾向と日本企業の課題

執筆者 要 慎吾 | 2018年3月12日

ウイリス・タワーズワトソンでは、3年周期で企業買収に伴うリテンションプランの具体的内容について、グローバルレベルで調査・分析を実施している。2017年においても、世界約250社(内本邦企業30社)が本調査に参加、グローバルの傾向及び日本企業の特徴と課題について分析を行った。
Mergers and Acquisitions
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本調査では、リテンションプランに関わる約30の設問を通じて、世界主要各国或いは様々な業界ごとの特性について分析している。ここでは、その中で日本企業の特徴を現している事項について、幾つか取り上げてご紹介する。

まず、リテンションプランの合意・契約締結のタイミングについてであるが、日本企業による買収の場合、相手企業の上級幹部層(ここではSVPレベル以上)に対しては、買収契約書(SPA)の締結時点或いはそれよりも前に約70%の企業が実施完了している。この数値はグローバル平均の40%よりも格段に高い。

【 上級幹部のリテンション契約については、約70%の日本企業は買収契約書締結までに完了している 】

Q. 上級幹部およびそれ以外の社員について、本案件のどの段階でリテンション契約の締結を求められましたか?

この理由として、日本企業による海外企業買収においては、業界を問わず、相手企業の幹部層には、引き続き経営を担ってもらうケースがほとんどであり、逆に買収直後に離職された場合は、買収自体が失敗に終わってしまうリスクがある。そうした意味で、当該M&A成功の前提条件である、経営幹部層のリテンションについては、ディールの早い段階での完了を目指すことが大事であり、これが調査結果の背景にある。特に、買収契約書の締結時点までに完了することが望ましいのは、契約書締結後では、リテンションプランにおける諸条件の交渉力が買収側から非買収側に移行してしまうためである。

次に、リテンションプランに基づく報酬支払いの条件についてであるが、これには二つの形態がある。一つは、一定の業績目標の達成を条件として支払われるもの(これを“Pay to Perform”という)、もう一つは、業績とは関係なく定められた期間の在籍のみを条件とするもの(これを”Pay to Stay”という)がある。日本企業の場合を見てみると、“Pay to Perform”の割合がグローバル平均に比べて高いのがわかる。グローバルは日本とは逆の傾向があることが見て取れる。

【 日本企業においては、リテンション報酬の支払いについて、一定の業績指標の達成を条件(“Pay to Perform”)とする割合が相対的に高い 】

Q. 上級幹部およびそれ以外の社員向けのリテンション契約は、期間に基づくもの(「一定期間の継続的な勤務に対する支給」:"Pay on Stay")、または業績評価指標に基づくもの(「一定の成果を挙げたことに対する支給」: "Pay to Perform")、またはそれら両方の組み合わせでしたか?

我々がM&A案件においてコンサルティングをさせて頂く場合でも、日本企業の経営陣の多くはやはり、“Pay to Perform”を好む傾向があるように思う。日本の場合、感覚的に何ら業績達成とは関係なく報酬を支払うことに対する抵抗感があるのであろう。「何も達成していないのに、在籍しているだけで何故払うのか?」、逆に「決められた目標を達成してくれれば、報酬はたっぷり弾む」という話もよく聞く。この発想自体は我々も理解できない訳ではない。

では何故、グローバルでは逆に、“Pay to Stay”の方が多いのか。それは、リテンション効果という意味では、「在籍している」ということ以外何も条件が付されていない方が、受け取る側からすればリスクが少なく、結果としてリテンション効果が高いからである。逆に “Pay to Perform”の場合は、目標が達成できないかもしれないと思えば、競合他社などからより魅力的なオファーがあれば、辞めてしまおうと思っても不思議ではない。最近では、日本企業においても、両方の手法を上手く組み合わせることで、報酬パッケージ全体としてのバランスを考慮して決める傾向も見受けられるようになって来ている。

最後にリテンションの結果についてであるが、日本企業はグローバルと比較してもリテンションで成功しているということが、以下の図から見て取れる。


【 リテンション契約を締結した場合の残留率は、世界的に極めて高い 】
 

Q. 上級幹部およびそれ以外の社員向けのリテンションについて、一定期間の継続的な勤務("Pay on Stay")を規定した場合、リテンション期間の全期間を通し残留した社員の比率はどの程度ですか?

これ自体、大変喜ばしいことではあるが、日本企業の海外買収において散見されるのは、相手経営陣に経営を任せっきりにしてしまい、ある意味で単に”“居心地の良い”会社にしてしまっているケースである。

M&Aのそもそもの目的である、事業シナジーを創出して、買収対象企業のバリューアップを実現していくという意味では、国や企業のカルチャーの違いを考慮しつつ、適切な組織・人事、そしてガバナンス体制の基でPMIを着実に実行していくことが、今やM&Aの実行自体にはだいぶ経験を積んできた日本企業に最も求められていることだと感じる。

執筆者プロフィール

要 慎吾
ディレクター

M&A部門


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