~ 事業環境の変化の中で、人材のアトラクションとリテンションにおける
変化とは? ~
教育投資の著しい中国においても自国ニーズを賄うのがやっとで、人材供給源を期待できない状況にある。今後ますます、“欲しい人材”の獲得競争は熾烈化することが予想される。(図1)
図1:中期的にグローバルに熾烈化が予想される人材獲得競争 (画像をクリックすると拡大します)
【グローバルレベルで活発化する採用活動(アトラクション)と人材流出のリスク】
弊社では、2年に一度、主要約30の国と地域において、企業を対象とした『グローバル・タレント・マネジメント&リワードサーベイ』と、従業員個人を対象とした『グローバル・ワークフォース・スタディ』を実施している。2016年のグローバル・タレント・マネジメント&リワードサーベイの結果を見ると、既に企業の採用活動(アトラクション)はグローバルレベルで活発化しており、およそ半数(48%)のサーベイ参加企業で、採用活動が増大している。こういった動きは、今まで採用活動が活発とされている新興市場のみに見られる特徴ではなく、日本のような成熟市場においても、事業成長上重要なスキルをもつ従業員、潜在能力が高いと見込まれるハイポテンシャル社員、高業績者を中心に5割を超える企業が、採用活動を加速化させている。(図2)
図2:採用活動の熾烈化 (画像をクリックすると拡大します)
同時に、同サーベイの結果を見ると、サーベイ参加企業の35%が退職率の増加、人材流出に直面している。こちらもまた、リテンションの難しさが問題視されている新興市場のみに見られる現象ではなく、日本のような成熟市場においても、4割を超える企業で、特に事業成長上重要なスキルをもつ従業員、潜在能力が高いと見込まれるハイポテンシャル社員、高業績者を中心に、退職、人材流失の危機に直面している。(図3)
図3:リテンションの難しさ (画像をクリックすると拡大します)
人材流出は企業にとって、大きなコストインパクトを持ち、新たな人材獲得競争が熾烈さを増す中で、既存の優秀人材・中核人材をリテンションすることの意義は極めて大きいといえる。
では、何がアトラクション・リテンションのドライバーになっているのか?
【日本はやはり受け身?】
グローバル・ワークフォース・スタディの2016年結果をみると、日本の結果においては、会社の魅力度や、離職を考える理由の双方で、“積極性”を伴う項目よりも、“受動的”な項目が多数上位に挙げられている。アトラクション(入社の決め手となる会社の魅力度)においては、キャリアや成長といったいわゆる積極的な項目よりも、基本給や雇用の安定性に加え、通勤時間、有給休暇やその他の休暇、商品やサービスの内容など、会社から与えられるものや会社の現状といったいわゆる受動的な項目が、2014年に実施した前回結果よりも増加している。一方、会社側が考えるアトラクションのドライバーは、キャリア向上の機会といったいわゆる積極的な項目が上位にあり、社員から見た会社の魅力と会社が考えるアトラクションとのドライバー要因の意識に乖離がみられる。(図4)
また、リテンションにおいても、社員側からの離職を考える理由としては、業務上のストレス管理や上司やマネージャーとの人間関係といった直面する課題や将来不安などの回避がドライバーとなっているのに対し、会社側が考えるリテンションのドライバーは、キャリア向上の機会やチャレンジングな業務内容、業務上の裁量(自律性)や新しいスキル習得の機会といった、ポジティブな要因の過不足が挙げられている。 社員が会社に残るのか辞めるのかを判断するドライバーについても、企業側の意識と社員側の意識には乖離が見られる。(図4)もちろん、この結果は業界、企業により異なるため、今後、特に重要人材や中核社員のリテンションを確実にするには、それぞれの会社にとってのリテンション・ドライバーをファクトベースで正確に把握することが、重要となる。
図4:アトラクションとリテンション (画像をクリックすると拡大します)
2016年のグローバル・タレント・マネジメント&リワードサーベイ結果と、グローバル・ワークフォース・スタディの結果を見ると、日本では、アトラクション、リテンション共に、受動的な要因が増加し、変化の激しい環境の中で、日本人のビジネスパーソンが受身になっているのではないか、と危惧される。 また、社員と企業の認識の乖離も、気になる点といえる。
今後ますます熾烈化すると予想される“欲しい人材”の獲得競争や重要人材・中核社員のリテンションを確実にするには、現在の、社員と会社の認識のギャップを認識し、これを埋める努力をすることが求められる。
近年欧米を中心に、社員のlife-cycle surveys (entry/exit surveys)などの導入・活用が再度注目されている。日本企業においても、今後中長期的な人材戦略の構築、仕組みを効率的・効果的に整備する一環として、在籍する社員の意識を正しく把握することに加え、卒業する社員の意識を、将来迎える社員に生かす努力が求められよう。