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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

在宅勤務時代に向け企業が取り組むべき3つのポイント

執筆者 松尾 梓司 | 2020年7月14日

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業で在宅勤務(テレワーク)の導入が急速に進んでいる。在宅勤務の導入・定着化により、企業文化は否応なく変わることになる。本論では、在宅勤務という働き方が“当たり前”となる時代に企業が取り組むべきことを紹介する。
Work Transformation|Employee Experience|Ukupne nagrade
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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業で在宅勤務(テレワーク)の導入が急速に進んでいる。そもそも在宅勤務ができない、もしくは馴染まない業種・職種を除くと、導入時には多くの懸念があったものの、いざ在宅勤務をしてみると「特に問題ない、これまでと同様の仕事が家でもできる」と感じた会社員は少なくないだろう。

新型コロナウイルスが収束した際に、在宅勤務という新しい働き方が多くの企業で継続されるかは定かでない。しかし、通勤時間がなくなることをはじめとした社員のメリットや、オフィススペースの削減によるコスト抑制といった企業のメリットを鑑みるに、在宅勤務が一定程度定着する可能性は多分にあると考える。

私どもウイリス・タワーズワトソンでは、企業文化を“The Way We Work”、働き方・仕事の進め方そのもの、と定義している。在宅勤務の導入・定着化により、企業文化は否応なく変わることになる。本論では、在宅勤務という働き方が“当たり前”となる時代に最適な企業文化を構築するため、企業が取り組むべきことを3点に絞って紹介する。

1. 職務の細分化と再構築

現在多くの企業で実施している在宅勤務は、システム環境・セキュリティ対策などを整備した上で、これまでの仕事をそっくりそのまま自宅で実施する、というものになっている。結果として、オフィスで取り組むよりも非効率になったり、中には在宅勤務になると同時にすべき仕事が手元になくなった、という人も少なくない。いずれオフィスでの勤務に戻る前提であれば、一時的にこのような状況が起きることは許容できるかもしれないが、在宅勤務が常態化する場合には看過できない。

最適な在宅勤務を実現するためには、今の仕事を場所だけ変えて継続するのではなく、仕事を“タスク(作業)”というより細かい単位に分解し、在宅勤務という環境で誰がどのタスクを担うか、という視点で仕事を再構築する必要がある。このような検討を行うと、一部のタスクは在宅勤務に適さないということが明確になる。こうしたタスクをひとまとめにした新しい仕事を、オフィス勤務社員に付与する一方、在宅勤務で問題ないタスクの固まりは別の社員に与える、ということが、タスク単位で仕事を再構築することで実現できる。結果として、生産性が高まり、また在宅勤務で暇をする社員も存在しなくなるはずである。

上述の仕事の再構築の手法は、AIやRPAといった自動化、またアウトソーシングを企画する際に用いるものである。在宅勤務に合わせ、自動化・アウトソーシングなどの導入を検討することで、真の新しい働き方(Future of Work)の実現に取り組むことが可能となる。

2. 上司のマネジメント対象の再構築

在宅勤務への不安としてよく耳にするのが、部下の日々の活動を観察できなくなることへの不安を訴える上司の声である。間近に部下がいないため、適切なマネジメントができない、という心配は理解できなくはないが、上司が目の前にいる部下を観察・監督して適宜指示・指導を与える、という従前のマネジメントを在宅勤務で実施することは極めて困難といえる。ここは発想を変えて、上司が管理監督すべき対象そのものを見直すべきである。

上司の不安は、部下の仕事の“プロセス”を観察できないことにあるが、在宅勤務でプロセスを随時把握することは不可能だ。在宅勤務環境下で上司が見るべき対象は、部下のプロセスではなく、部下が生み出したアウトプットである。具体的には、部下が期中の目標を達成するために、当面生み出すべきアウトプットについて、事前に上司・部下間で共有し、短いスパンで進捗を確認して、必要な指導と次のアウトプットの設定を行う。このような手法は、新たな目標管理手法として着目を集めているOKRでも提唱されている(実際にOKRを導入しているある企業では、1週間単位で上司ー部下間のコミュニケーションと仕事の進捗共有がなされている)。

ただし、上司が部下のプロセスを把握しなければ、コンピテンシー評価を実施するための行動事実(評価の根拠となる部下の行動に関する情報)の収集ができない。部下のコンピテンシーの発揮状況を適切に捉えるために、上司は部下のアウトプットだけを見るのではなく、どのような行動や工夫をしてそのアウトプットが生み出されたかをしっかりとヒアリングするとともに、部下に対して適切なコーチングを行い、より高いレベルでのコンピテンシー発揮を促す必要がある。このように在宅勤務下において上司には、コーチングやコンピテンシーインタビュー(行動事実を収集するためのヒアリング)に関する高いスキルが求められるようになる。

3. Employee Experienceの再構築

毎日オフィスに出勤する、という行為がなくなることで、社員間のコミュニケーションが頻度・質ともに落ちることは、テクノロジーを駆使しても避けられない。また、オフィスの設備や掲示物、あるいは雰囲気といったものに触れられなくなることも相まって、社員の会社への帰属意識の低下が懸念される。現状では、全社集会や飲み会といったイベントを通じた一体感醸成も難しい状況にある。

社員が社内で経験するあらゆる要素(戦略、方針、施策、業務、検討プロセス、労働環境、人間関係など)に意味を持たせ、社員に会社に対するポジティブなマインドを醸成することをEmployee Experienceと呼ぶが、在宅勤務は上記に挙げたようにEmployee Experienceの希薄化に繋がりかねないものといえる。

このような状況において会社がすべきことは、自社のEmployee Experienceについての社員の認識を把握し、特に在宅勤務という環境により状況が悪化した要素について、必要な手立てを検討し即座に対応することである。

例えば、会社や経営陣と社員の距離感の拡大という課題(PEOPLE面の課題)に対しては、パーソナライズされた情報の提供が解決策として考えられる。当社が提供している社員ポータルサイトでは、トップページに社員一人ひとりの属性情報に応じカスタマイズされた情報が掲載される。これにより、社員が関心を持ってそれらの情報を見ることや、会社・経営陣が自分のことを考えてくれている、と感じることが期待できる。会社や上司・同僚と距離感が生まれてしまう環境において、パーソナライズされた情報発信は、Employee Experienceの向上のための効果的なアプローチと考える。

新型コロナウイルスの状況はもちろんのこと、在宅勤務が日本企業において定着化するのか、将来の状況はクリアに見えないのが実情だ。しかし、今回ご紹介した手法は、仮に在宅勤務が根付かなかったとしても、無駄になるものではない。今置かれた環境で社員の最大限のパフォーマンスとEmployee Experienceを獲得できるよう、建設的な検討に取り組んでいただきたい。

執筆者プロフィール

ディレクター
Employee Experience(EX)

日系コンサルティングファーム・外資系PRエージェンシー等を経てWTW入社。従業員コミュニケーションやチェンジマネジメント、各種人事施策の企画に関するコンサルティングに従事。主な著書『M&Aシナジーを実現するPMI−事業統合を成功へ導く人材マネジメントの実践』(共著、東洋経済新報社)。京都大学法学部卒業。


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