メインコンテンツへスキップ
main content, press tab to continue

~ それでも、従業員意識調査は有効なコミュニケーション手段 ~

執筆者 市川 幹人 | 5月 2018年

ウイリス・タワーズワトソンでは、様々な企業に対して従業員意識調査を行い、その結果に基づくコンサルティングを提供している。各社からの最近のご相談を振り返ると、従来にも増して調査実施の目的を深く議論し、フォーカスするテーマをより具体的に設定しようとする流れが感じられる。調査結果に基づくアクションが目に見える変化につながることを強く求めるのである。
Employee Experience
N/A

ウイリス・タワーズワトソンでは、様々な企業に対して従業員意識調査を行い、その結果に基づくコンサルティングを提供している。各社からの最近のご相談を振り返ると、従来にも増して調査実施の目的を深く議論し、フォーカスするテーマをより具体的に設定しようとする流れが感じられる。調査結果に基づくアクションが目に見える変化につながることを強く求めるのである。また、自社内の個別組織に対して、調査項目、調査実施時期、調査対象社員などを決定する裁量をどこまで与えるかという議論もよく聞かれる。全社一斉で共通の設問項目に回答させ、全社レベルの調査結果を各組織にブレイクダウンするという従来のアプローチだけでは、各部署のニーズに対応しきれなくなってきたことを示唆している。本稿では、まず従業員意識調査の有効性について改めて考えた上で、最近の従業員意識調査をめぐる主要な論点を整理してみたい。

<< 従業員意識調査の有効性 >>

調査結果をどのように解釈し、変革に向けてどんなアクションをとっていくのか。これはおそらく、従業員意識調査に関して永遠に問われる論点であろう。もちろん、同様の議論は以前からあるが、近年のテクノロジーの進歩に伴って従業員に関する情報収集の選択肢が増え、従業員意識調査の価値が低下したという見方すらもある。こうした中、米フェイスブック社において従業員の行動分析(People Analytics)を担当するスコット・ジャッド氏とエリック・オルーケ氏、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの教授であるアダム・グラント氏らが先月「ハーバードビジネスレビュー」に興味深い記事を寄稿した。タイトルは「依然として従業員意識調査はエンゲージメントを測定する最善の方法のひとつ」というものである。上記の記事によれば、主に以下の3点に関して従業員意識調査は有効であるとしている。

  1. 従業員が取る行動を予測する先行指標
  2. 従業員にとって自分の意見を聞いてもらう機会
  3. 従業員の行動の変革

1点目の事例は、日本ではあまり当てはまらないかもしれないが、従業員意識調査によって退職意向をより正確に把握できるという。具体的には、システムが判断する退職予測(従業員に関する様々なデータを基に退職意向を予測する仕組みを指しているものと思われる)よりも2倍以上の精度を示し、また同社が実施する2種類の従業員意識調査に参加しないというだけでも、半年以内に退職する可能性が高いことが確認されている。

2点目は、従業員が会社や仕事について日頃感じている想いを伝える場としての重要性である。言い換えれば、従業員意識調査の実施は、従業員の意見に対する会社・組織側の傾聴姿勢を示すことになるわけである。つい先日、日本を代表するグローバル企業の1社とまさにこの点について議論する機会があった。その会社では、過去数年間にわたり従業員意識調査を実施してきたが、毎回同じような課題が確認され、同じようなアクションを実行してきたが、なかなか変化が実感できない状況に陥っていた。各組織からのフィードバックも、調査を継続する意義を疑問視する声が少なくない。それでは、従業員意識調査を廃止したらどうなるだろうか。会社は人材を重視すると宣言している一方で、従業員の意見を経営に伝える場をひとつ減らすことを意味する。通常自分の意見を強く主張しないような従業員も含んで、会社・組織が重要と考えるテーマに関する彼らの声に耳を傾ける。シンプルではあるが、従業員意識調査はやはり不可欠なコミュニケーションの手段と捉えるべきである。

3点目についてもよく議論がある。従業員意識調査を実施するほとんどの企業が全社レベルのミッション、ビジョン、バリュー、あるいは中期経営計画などに関する従業員の理解度、納得度、実践度を尋ねる。企業側の本音としては、これらの設問に対する回答傾向を捉えるのが最終的なゴールではなく、全社の方針を広く深く従業員に周知徹底させることを狙っているわけである。フェイスブック社によれば、質問形式でメッセージを投げかけると従業員がそれを自覚し、行動に移そうとする傾向が強まることが検証されている。例えば、職場を良くするために何か取り組んでいるかを尋ねられた従業員は、尋ねられなかった従業員よりも、仕事に没頭する上で必要なリソースをリクエストする率が1割以上高くなったという。

<< 従業員意識調査における主要テーマの変化 >>

従業員意識調査の有効性に関する議論と平行して、調査で明らかにしようとするテーマ設定にも変化の潮流が感じられる。弊社では、従業員の「満足度」調査ではなく、各自が自分の会社や仕事にやりがいや誇りを感じ、持っている能力・スキルを最大限発揮して生き生きと働くことをゴールとする「エンゲージメント調査」の重要性を訴えてきた。

しかし近年は、「エンゲージメント」に加えて、より個別のテーマをフォーカスするような相談が増えている。具体的には、企業倫理やコンプライアンス、働き方改革あるいは業務効率性、ワークライフバランス、ダイバーシティ、イノベーションなどのテーマである。もちろん、個別テーマの重要度は各社のニーズによって異なり、ほんの数問加えることを想定する企業もあれば、調査全体の中心的なテーマとしておくことを検討する企業もある。いずれにせよ、産業界でホットなこのようなテーマに対する従業員の考えを把握して、具体的な施策を考えるヒントを求めているのである。

<< 従業員意識調査の実施や結果活用の主体に関する議論 >>

このほかのトレンドで看過することができないのは、調査の運営・活用における主体についての考え方の変化である。従来は、どちらかといえば、従業員意識調査は全社を挙げてひとつの枠組みで実施し、グループ会社や海外拠点を巻き込む場合でも、基本的には本社のプロジェクトチームに運営面の全権を集中させていた。つまり、調査内容やスケジュール、さらにはアクションプランニングの取り組みに対するガイドラインなどを中央でコントロールしようとすることが一般的だったといえる。

しかし近年は、調査対象が広範囲にわたる企業を中心に、調査を分散化して実施することを検討するケースが増えてきた。調査内容、実施時期、組織別の調査結果分析、改善のための取り組みなど、調査の各ステップにおいて組織ごとにニーズが異なり、共通の枠組みの中で調査を完結させることがフィットしにくいと判断されるためである。特に、グローバルで調査を実施する場合、各リージョン・国・拠点の意向をひとつの方向性に集約させることは容易ではない。

確かに、各職場において自分たちの課題や強みをよく理解し、働きやすい職場環境を整えることを目指す上で、このようなアプローチを取ることは合理的なものと考えられる。ただし、個別に実施する場合でも全社共通で捉えるべき課題があるなら例外なく含めるようにすると共に、運営面の非効率性やコストパフォーマンスにネガティブな影響が出ることは避けるべきであろう。

<< 変化するニーズへのウイリス・タワーズワトソンの対応 >>

上記のような市場ニーズの変化に対応すべく、弊社では昨年新しい調査システムを導入した。短期間に調査を手軽に繰り返し実施、従業員の意見をタイムリーに把握することを目的に開発された仕組みである。その特徴は、調査項目、対象者、実査時期などについて、クライアント側が必要に応じて手元で調整できる点にある。具体的には、以下のようなポイントである。

  • 400項目以上からなる設問データベースを活用して、容易に調査票を設計
  • 直感的な操作により短時間で調査サイトをセットアップ(主要言語に対応)、調査対象者に案内メールを配信することで迅速に調査をスタート
  • 1年間の契約期間中は、いつでも何度でも調査の実施が可能(設問項目の変更も可)
  • 実査終了と共に集計結果を分析し始めることが可能
  • ベンチマークデータと比較しながら自社の特徴を分析

この調査システムは、例えば、新制度や各種施策導入のほか、社内で発生した出来事などホットなテーマをタイムリーに取り上げたり、従業員の受け止め方の実態を把握したり、施策の軌道修正をするための基礎情報として活用することに向いている。

<< おわりに >>

本稿では、最近見かける主要な変化を述べてきたが、従来の全従業員向けの定期的従業員意識調査に対するニーズがなくなったわけではない。調査の方法や頻度、内容以上に重要なのは、会社・組織がそこで働く従業員とコミュニケーションを十分取っているか、彼らが指摘する問題点にどのように対処しようとしているかである。

ビッグデータの活用やAIの進歩など、データの収集・分析のためのテクノロジーが目覚しい進化を遂げているとはいえ、本人に直接尋ねることなく、どこかで自動的に収集されたデータをシステムが分析しているだけでは従業員は納得しない。このような時代においても、従業員に質問を問いかけるというアナログ的なアプローチこそ、分かりやすく確実なコミュニケーションの方法といえるのではないだろうか。

Contact us