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ベトナムでの環境保護法の改正と罰則規定の明確化について

~環境汚染賠償責任保険の必要性~

執筆者 中村 友美 | 2022年10月18日

魅力ある投資先として製造業を中心とした多くの日系企業が進出をしているベトナムですが、経済発展に比例するように大気汚染や水質汚染が年々悪化しています。ベトナム政府は2014年に環境保護に対する法律を制定、その後も改正を重ね、2022年7月の改正で初めて罰則が明確化されました。
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ベトナムは人口9,500万人超、平均年齢は30歳と豊富な労働人口を抱え、魅力ある投資先として製造業を中心とした多くの日系企業が進出をしてきています。しかし著しい経済発展に比例するように、主に都市部や工業地帯で大気汚染や水質汚染が年々悪化し、環境に対する危機意識を持っていたベトナム政府は2014年に環境保護に対する法律を制定しました。その後も改正を何度か行い、2022年1月に08/2022/ND-CPを、また、7月には45/2022/ND-CPを公布し、初めて罰則が明確化されました。

環境汚染とは

環境汚染や公害を意味するPollutionとは、(汚物や異物の)排出/放出、拡散、漏出、土壌や海への浸透、不法投棄を意味します。汚染の原因は有害な液体だけに限らず、固体、ガスや煙などの気体、熱性刺激物と幅広く定義されており、影響は土壌や河川、海域、空気、住宅地、そこに居住する住民など、被害を受ける対象は想像を超える広範囲に及びます。また、一度汚染された場所を元の状態に戻すには長い年月が必要となります。

ベトナム自然環境の現状

ベトナムではGDP成長率7%前後を維持する経済発展を遂げておりますが、経済や利益への追及が優先され、人々の環境に対する意識の低さもあり、特にハノイとホーチミンでの大気汚染レベルは、世界ワーストレベルに達しており健康被害も続出しております。また、水質汚染については、基準値を大幅に上回る警戒レベルに達し、自然生態系にも悪影響を及ぼしており、生物が死滅してしまった河川もあります。

厳格化した環境保護に対する罰則

このような状況を危惧したベトナム政府は2014年に環境保護に関する法律を制定し、その後も2016年、2019年、2020年での改正を経て、2022年1月に08/2022/ND-CPを公布、また、7月に公布した45/2022/ND-CPでは罰則規定を明確化しました。

「環境への補償に対しての賠償責任保険に加入していない」場合、罰則金はVND 220,000,000からVND 250,000,000(約100万円から150万円)と記載されており、2022年8月25日以降適用となりました。

但し、保険加入が義務付けられているのは、法律に記載されている業種で、尚且つ一定の条件を満たした企業のみとなりますが、ベトナムでは法律の改正が頻繁に行われるので今後の動きに注意が必要です。

以下は、2022年9月の時点で対象となる17の業種で、保険加入が必須となる条件の部分を抜粋した表です。

List of types of production, business and services likely to cause environmental pollution

引用:APPENDIX II (Enclosed with the Government’s Decree No. 08/2022/ND-CP dated January 10, 2022)

No. Type of production, business and service likely to cause environmental pollution Capacity
Large
(1) (2) (3)
I Level I  
1 Enrichment and processing of toxic minerals and metallic minerals; processing of minerals using harmful chemicals; At least 200,000 tonnes of ore usable as input materials/year
Glass production (except for types using gas, DO) At least 200,000 tonnes of products/year
2 Production of cast iron and steel, metallurgy (except workpiece material rolling, drawing, casting) At least 300,000 tonnes of products/year
3 Production of pulp, production of paper from recycled materials or from biomass At least 50,000 tonnes of products/year
4 Production of basic inorganic chemicals (except industrial gases), chemical fertilizers (except blending, division and packaging), agrochemicals (except for blending and division) At least 5,000 tonnes of products/year
5 Production of fabrics and yarns, textile production (with dyeing, denim dry or yarn sizing stage) At least 50,000,000 m2/year
6 Leather production (by tanning process); tanning At least 10,000 tonnes of products/year
7 Exploitation of crude oil and natural gas All
Oil refinery and petrochemical At least 1,000,000 tonnes of products/year
8 Coal-fired power At least 600 MW
Coke production At least 100,000 tonnes of products/year
Coal gasification At least 50,000 m3 of gas/hour
II Level II  
9 Recycling and treatment of domestic solid waste, normal industrial solid waste At least 500 tonnes/day
Recycling and treatment of hazardous waste; breaking of used ships; use of imported scrap as raw materials for production All
10 Plating involving cleaning of metal surfaces with chemicals At least 10,000 tonnes of products/year
11 Cell and battery production At least 600 tonnes of products or 200,000 KWh/year
12 Cement production At least 1,200,000 tonnes/year
III Level III  
13 Rubber latex processing At least 15,000 tonnes/year
14 Production of tapioca and monosodium glutamate At least 10,000 tonnes of products/year
Production of beer and carbonated soft drinks At least 30 million liters/year
Industrial alcohol production At least 02 million liters/year
15 Production of sugar from sugar cane At least 10,000 tonnes of products/year
16 Fisheries product processing At least 20,000 tonnes of products/year
Industrial-scale slaughtering of cattle and poultry At least 1,000 cattle heads/day or at least 10,000 poultry heads/day
Industrial-scale raising of cattle and poultry At least 1,000 animal units
17 Production of electrical and electronic parts and devices At least 01 million devices and parts/year or at least 1,000 tonnes of products/year

環境汚染賠償責任保険について

法律には保険加入の義務が明記されておりますが、それに対応するのが環境汚染賠償責任保険と呼ばれるものです。この保険は環境汚染によって第三者、または被保険者に対して生じた賠償責任を補償します 補償内容は、汚染浄化費用(被保険者の汚染された土地を含む)や天然資源への賠償費用、第三者への治療費用、弁護士費用などです。この保険の特徴的な点は、突発的または偶発的に生じた汚染だけではなく、段階的に起こった汚染も補償となることです。例えば、気づかないうちに基準値を超えた有害物が土壌へ排出され続けていた場合、1) 行政(法令)によって生じた損害賠償金、2) 土壌の浄化費用、3) 弁護士費用、4) その土壌で作物を栽培している農家への賠償費用、5) その作物を食べたことを起因とする第三者への身体的障害に対する賠償費用や治療費用、と、考えられるだけでも莫大な責任と費用の発生が想定されます。

このように企業の責任範囲は広い一方、今般の法律改正では、加入しなければならない補償限度額についてまでの記載はありません。一例として、2億円の上限で既に加入されている企業がありますが、限度額は各企業の判断に委ねられています。 在ベトナムの外資保険会社では10億円までの付保を提供しておりますが、それ以上の額でも条件によっては引き受け可能とのことです。

総合賠償責任保険に加入されている企業でも注意は必要です。この保険は突発的、または偶発的に起こった環境汚染もカバーしますが、補償は「弁護士・裁判費用」と「第三者に対する物的・身体的損害」のみです。環境汚染事故特有の「段階的に起こった事故」による第三者の資産や自然環境等のあらゆる浄化費用や、被保険者自身の土地の浄化費用、汚染によって第三者の資産価値が低下した場合の補償などは総合賠償責任保険では補償対象外となります。

ベトナムでの過去の事故例

①台湾系スチール製造メーカー

2016年に排水システムの過程での違反により、魚の大量死事故を起こした。行政からの改善要求にあった施設にかけた費用は364億円、漁民と海洋汚染処理に対する賠償金として520億円の支払いを公約した。

②台湾系食料品製造メーカー

少なくとも2006年からドンナイ省の川に未処理の廃水を流していたことが、2008年に環境警察によって摘発され、罰金や地元住民への賠償、一部操業停止という処分を受けた。総額で約7億円が課された。

最後に

これまでも環境警察は定期的に工場へ監査に入っておりましたが、今後は当局から様々な指導や罰則が要求されることが発生するかもしれません。ベトナムでは法律の不明確さから、各省や各担当員によって理解や認識が異なることが往々ですので、まず頼れる第三者からのアドバイスを得るなど、客観的な判断を仰ぐことが必要になると考えます。

【注】本情報は主題内容に関する一般的な情報を提供することを目的としており、日本国内における保険募集を目的とせず、また、法律上、会計上、及び税務上のアドバイスを目的としたものではありません。法律上、税務上、及び会計上の義務・条件に関する事項につきましては専門家にご相談下さい。

執筆者


Japan Global Practice Group, Vietnam
Corporate Risk & Broking

2010年から2016年まで在シンガポールの損害保険会社、2016年から2020年まで在ベトナムの損害保険会社での勤務を経て、2021年Willis Towers Watson Vietnam入社。ベトナム全土及びカンボジアに拠点を置く日系企業を担当し、リスクマネジメントコンサルティングサービスを提供。


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