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コーポレートガバナンス・コード改訂を受けた開示内容の概観

執筆者 服部 崇宏 | 2019年4月1日

2018年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂を受けて、2018年12月末日までにコーポレート・ガバナンス報告書を更新・提出することとされていたため、各社が昨年末にかけて対応した。今回は、経営者指名領域において特に関心が高いであろう①経営陣幹部の選解任、および②CEO等の後継者計画にスポットをあてて、開示の状況を概観した。
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<<CGコードの内容>>

改訂コーポレートガバナンス・コード(以下CGコード)は、経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続の開示すること(原則3-1(iv))、客観性・適時性・透明性ある経営陣幹部/CEO選解任手続を確立すること、資質を備えたCEOを選任すること(補充原則4-3①②③)などを要請している。改訂での大きな変化は、コーポレート・ガバナンス報告書(以下CG報告書)等による開示の対象に「解任」が含まれたことであり、改訂前から選任を意図した役員の要件開示は一部で進んでいたが、解任要件を各社がどのように開示するかが注目点の1つだったと言えよう。

他方、後継者計画については、改訂前から取締役会が適切に監督すべきとの要請があったが(補充原則4-1③)、CG報告書等における開示は限定的であり、昨年末にかけての更新でどの程度記載が充実してくるかも注目点だった。

<<CEO等の選解任要件>>

役員の選解任要件は、①形式面(方針と手続)か実質面(選解任要件)か、②対象の役職は何か、の2つの視点で分類することができる。

まず①形式面については開示自体のハードルがそれほど高くないと考えられ、経営トップの選任は「中長期的な企業価値向上のための重要な意思決定である」といった宣言をした上で、各社の会社法上の組織形態に応じ、「指名諮問委員会からの答申を受けて、取締役会で議論のうえ決定する」といった手続にどの程度の修飾語をつけるか、という議論だと思われる。他方、実質面については、「資質を備えたCEOを選任すべき」とされており、要件を開示するか否か、どの程度具体性を持たせるかという点で各社の色が出ているように見受けられる。特に、解任要件については、解任する要件なのか、解任の議論の端緒とする要件なのかといった位置づけから、要件の内容まで、現状の開示内容は各社でかなりの差異がある。

また②については、取締役、執行役、監査役といった会社法上の地位のほか、CEOや経営陣幹部などのCGコードに記載されている地位、チーフオフィサー、執行役員などの各社の地位について記載する等、様々なパターンがある。

具体的に、CG報告書の開示状況について特徴的な例を挙げながら見ていきたい。
(なお、CG報告書は2019年3月中旬までの内容を基にしている)

  • 形式面(方針と手続)

選解任の方針と手続については、原則3-1(iv)で直接的に要請があり各社が開示しているが、解任の方針と手続については、選任と分けて記載する例と「選解任」とまとめて記載する例がある。選任と解任の性質が異なることからすると、別に記載する方が整理しやすそうではあるが、論理的に説明ができればいずれでもよいと考えられる。

選任は(緊急性の高い「有事」でない限り)予定された時期に行われるのに対し、解任はそうではない。そこで、解任については、日頃CEOや経営陣幹部の職務の状況をモニタリングして端緒を察知する必要があるが、「職務と責任を果たせているかどうかは、年間複数回にわたり開催される評価部会での確認およびこれを踏まえて開催される役員指名諮問委員会で審議・確認しています*1」という開示例があった。

実質的な解任要件の開示に踏み込んだ企業も出てきているものの、その位置付けは「解任検討の基準」としているものがほとんどである。指名委員会で議論して取締役会に答申し、取締役会でCEO・経営陣幹部としての職を解任するとしている。ここで、解任の決断にあたって考慮すべき重要な要素の1つは、解任した後の体制である。後述のように、「機能を十分発揮していないと認められる場合」も解任要件とする場合は、要件該当性の判断のみならず、後継候補者の準備状況も考慮する必要があるだろう。「後継者計画により選定された後継者候補の成果発揮等の状況を踏まえ*2」て、取締役会が解任するか否かを判断すると記載している例があった。ただし、法令・定款違反などのように解任せざるを得ない状況の場合は、後継者候補の状況に関わらず判断することになると考えられるので、そのような事態が生じうることも想定した有事の後継者計画を策定・運用すべき、ということになるのだろう。

さらに解任した後のプロセスに言及する先進例もあった。「解任後の後任については、指名・報酬諮問委員会において、新社長執行役員 CEO候補者を選抜の上、取締役会に答申し、取締役会の決議により決定します。但し、直ちに後任を選任できない場合は、社内規程に基づく代理権行使者が社長執行役員 CEOの業務執行権限を代行し、可及的速やかに新社長執行役員CEOの選任プロセスを進める*3」というものである。

関連論点としては、「経営陣幹部の定義」がある。CGコードでは「CEO・CFO等の経営陣幹部」という記述があるが、CG報告書を見てみると「経営陣幹部」という言葉が共通の定義で使われているわけではないようだ。役職名が各社で同一ではないこともあり、当該企業ではどの役職が「経営陣幹部」に該当するかを示すことは、読み手の理解を促進するのではないだろうか。会社法上の地位ではない「CEO」などのチーフオフィサーや「執行役員」等は選任・終任がどのような手続・基準で行われるのかが外から見えない(あるいは見えにくい)ことから、開示の価値が特に高いと考えられる。

  • 実質面(選解任の要件)

実質的要件は、取締役・執行役・監査役といった会社法上の地位の「指名要件」を開示する例が極めて多い。CEO・経営陣幹部の選任要件の開示は一部、CEO・経営陣幹部の解任要件の開示はさらに少ないという状況である。

まず、選任要件については、一文で端的に表現する例、箇条書きで記載する例(キーワード、文章)などがある。いずれにしろ、エッセンスが分かりやすく表現されていることが重要であり、開示内容の詳細さよりも実際に「基準」として機能すること(各項目の要件該当性を判断する適切な評価手法があること)が重要であると考えられる。

他方、解任要件については、その取り扱い難さから端的な表現のものがほとんどである。その内容も、「法令・定款違反があった場合」や「機能発揮が不十分な場合」「業績が不振な場合」のように独立した解任要件とするパターンと、「選任要件の資質等を欠くことが明らかな場合」あるいはそもそも「選解任要件」という立て付けにする、すなわち選任要件の裏返しとするパターンがある。

まず、前者のパターンについて、「機能発揮が不十分な場合」というような要件は、期待されている機能が発揮されていないといえる事実があるかどうかを多面的に確認し、それが要件に該当するかといった評価が必要な性質のものであるから、その役員の期待役割や発揮すべき機能、「不十分」といえるかの判断基準を明確にしておく必要性が高くなるだろう。そうでなければ、定期的なモニタリングの際にも視点がぶれ、一貫した評価を行うことができなくなると考えられる。また、業績を要件とする際は、事業環境等の外部的要因とCEO等の手腕に帰する要因を区別できるような基準・指標が必要になるだろう。

次に、後者のパターンについて、特にスキル・資質領域において、後から要件を満たしていなかったということになると、選任時の議論・評価・決定のプロセスの信頼性を失うような重大な問題であることから、「当然そのような可能性もゼロではない」という理解の下、そのリスクを最小化するための選任のあり方・精度の向上を恒常的に図っていくこととセットになると考えられる。

<<後継者計画>>

後継者計画については、CGSガイドラインで「情報発信することを検討すべきである」とされている。後継者計画の中身の充実度は企業価値を大きく左右しうるものであり、ステークホルダーの関心も高いと考えられるため、CG報告書等でより具体的に開示する例も増えてきているものの、割合としてはそれほど高くないように見受けられる。

現時点では、CGSガイドラインが示している「後継者計画の策定・運用に取り組む際の7つの基本ステップ」をベースに、言語化・文書化あるいは体系的な仕組みを正に整備しているところ、という企業も少なくないと思われる。策定から運用フェーズに入った場合も、事業環境や戦略等を踏まえた基準(要件)の見直し議論は継続的に行う必要があるが、客観的で公正な評価のために多角的な評価手法を取り入れ、選解任要件の該当性を正確に判断していくことがより重要であると考えられる。すなわち、開示ありきではなく、中身のある後継者計画の策定・運用が求められているということは言うまでもない。

最後に、非常に充実した内容の開示例を掲載させていただきたいと思う。ご覧頂くと、網羅性があり開示内容の裏によく練られた後継者計画が策定・運用されているのだろうとお感じになるのではないだろうか。

後継者計画に関する開示例*4
  • 当社は、グループ全体の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図るべく、最適な人材をグループCEOやグループCEOを支える主要な経営陣(カンパニー長等)、中核3社のトップ等に登用できるよう、十分な時間と資源をかけて後継者計画(サクセッション・プランニング)に取り組んでいます。同時に、グループCEOの不測の事態にも備えるとともに、“次の次の”グループCEOの候補者についても検討を行います。
  • グループCEO等の後継者計画の策定・運用状況については、指名委員会および人事検討会議(以下、「指名委員会等」という)に報告がなされます。
  • グループCEO等の後継者計画においては、①求められる人材要件、②交代時期、③候補者プールの設定と時間をかけた候補者の適切な育成(候補者の重要なキャリア選定を含みます)、④指名委員会等の各委員による候補者の人物把握、⑤候補者の決定等について、現グループCEOの意見も踏まえつつ、指名委員会等で審議することを基本的な取り組み内容としています。
  • 指名委員会等においては、360度評価や外部評価機関による第三者評価等、多面的な人材評価情報を活用し、徹底的に候補者のプロファイリングを行い、現グループCEOの意見も徴した上で、年次順送りなどの形式的な人事運用を排した人物本位での選定について、十分な議論を行います。現グループCEOは、指名委員会等の各委員が候補者の能力・資質等を直接に把握するプロセスを設ける等、指名委員会等による候補者の人物把握に最大限の協力を行います。
  • 執行役を兼務する取締役であるグループCEOについては、指名委員会により、プロセスの客観性や透明性の確保を図りつつ決定を行うこととしています。

*1 資生堂「コーポレート・ガバナンス報告書」
*2 J.フロント リテイリング「コーポレート・ガバナンス報告書」
*3 住友商事「コーポレート・ガバナンス報告書」
*4 みずほフィナンシャルグループ「コーポレート・ガバナンス報告書」

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