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~ウェルビーイング新時代の幕開け (well-being 3.0)~

執筆者 中島 明子 | 2018年6月12日

ウイリス・タワーズワトソンの福利厚生(ベネフィット)に関する最新グローバル調査によると、社員の福利厚生・処遇に関するグローバルなトレンドとして、社員のwell-being(ウェルビーイング)向上を目的としたプログラム・施策への注目度が高まっています。「ウェルビーイング」とは「幸福」「健康」と翻訳される言葉ですが、身体的、精神的、社会的に「良好な状態にあること」を意味し、極めて広範な領域に関わるため、従来の福利厚生施策の概念では収まりきれません。
Health and Benefits|Benessere integrato
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健康増進のための様々な施策やメンタルヘルスプログラムはもちろん、昨今の「働き方改革」もウェルビーイング施策といえるでしょう。実際、極めて広範な領域に関わるがゆえに「雲を掴む話」にならないよう、まずは全体像から見てみましょう。

企業は従業員のウェルビーイングに関心を払うべきか?
もちろん、答えはイエスです。身体的、精神的、社会的に良好な状態にある従業員は生産性の向上につながるからです。しかし企業が提供するウェルビーイング施策に対する評価には、企業と従業員との間で大きなギャップがあります。GBA調査の設問「会社の取り組みは自分が健康的な生活を送るために役に立っている」に対して、肯定的な回答をした従業員は、全体で3割程度に過ぎません(図表1)。一方、企業を対象とした別調査の同様の設問に対し、5割の企業が肯定的な回答をしています。特に日本では健康経営を標榜する企業が増えているにも関わらず、企業・従業員とも低い評価となっています。

図表1: 企業は自社のウェルビーイング関連の取り組みを過大視する傾向がある

図表1: 企業は自社のウェルビーイング関連の取り組みを過大視する傾向がある

また、経年で日本の結果を見ると、年々否定的になっていることが分かります(図表2)。これはグローバルでも同様の傾向があり、ウェルビーイング施策にいち早く取り組んでいる米国においても、2011年のGBA調査では41%であった従業員満足度が2017年調査では32%に下落しています。

図表2: 企業が従業員の健康やウェルビーイングに投資しているにも関わらず、企業の取り組みやサポートに対し、従業員からの評価は向上していない

図表2:	企業が従業員の健康やウェルビーイングに投資しているにも関わらず、企業の取り組みやサポートに対し、従業員からの評価は向上していない

何故、企業のウェルビーイング施策は従業員からの評価が上がらないのか?
端的に言えば、従業員が望んでいるのは、企業が提供する健康増進プログラムに参加することで得られる奨励金やポイントではなく、各人のニーズに即した真に意味のある制度やツールであるということに、企業が応えきれていないのです。従業員のウェルビーイングを4つの側面から全体的に捉えるアプローチにシフトする時期なのです(Well-being.3.0)。

  • Well-being1.0 ~ 第一の波:肥満予防に万歩計等の配布
    まず、これまでのウェルビーイング施策のトレンドを振返ると、禁煙プログラムや万歩計の配布など身体的な健康増進が主流であった時期がありました。このような「伝統的なウエルネスプログラム」は、もはや有効ではないことを調査結果や経験は示しています。かつては「自社の従業員の健康を維持できれば、企業が負担する医療コストが節約できる」という医療費削減を主眼としていました。しかしながら、プログラムオーナーである企業が自社の従業員の健康を真に考えるのではなく、プログラムに参加したことに対して報奨(金銭や賞品)を出す施策ばかりに注力するだけでは、従業員はその施策が自分たちの健康維持に恩恵をもたらすものであることを実感できなかったのです。

  • Well-being 2.0 ~ 第二の波:フィナンシャル・ウェルビーイング
    次に、企業は従業員が自身の経済状況に不安を抱えていると業務に悪影響を及ぼすことに着目し始めました。フィナンシャル・ウェルビーイング(financial well-being)、つまり、従業員が自身の財政をよりうまく管理し、退職後に備える貯蓄ができるようなサポートの重要性を企業は認識し始めました。実際GBA調査結果からも、短期・長期的なフィナンシャル・ストレスを抱えている従業員は増えており、自身の経済状態への満足度は下がる傾向にあります(図表3)。

    図表3: 従業員の経済的な満足度: 各国の経年的変化

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    図表3: 従業員の経済的な満足度: 各国の経年的変化

    しかしながら、退職後の生活を維持する十分な資力がなくリタイアできない高年層もいれば、奨学金の返済に苦労している若年層もいる等、従業員の経済状況や課題は一人ひとり異なります。一元的なサポートでは個々の状況を改善するものにはならず、従業員もその恩恵をあまり実感することができませんでした。

  • Well-being 3.0 ~ 第三の波:ホリスティック・アプローチ
    身体的な健康、メンタルヘルス、健全な財政状態など、様々な側面におけるウェルビーイングが重要であることに疑いの余地はありませんが、これまでは、それぞれの問題を単独のものとして切り離して捉えていました。しかし、実際には相互に密接に絡みあっています。例えば、ストレスはメンタルな問題と捉えられがちですが、その原因に経済的な問題が存在することは多々あり、これらを全体的に捉えるアプローチが、今まさに求められています。ウェルビーイングへの完璧なアプローチとは以下の4つの側面からなり(図表4)、それぞれが相互に関連するとともに、従業員一人ひとりにフォーカスするものです。

    図表4: ウェルビーイングを全体的に捉え、成功へと導く4つの側面

    図表4: ウェルビーイングを全体的に捉え、成功へと導く4つの側面

企業は、自社の従業員のウェルビーイング施策を考えるとき、従業員一人ひとりの状況が異なることを理解し、それぞれが掲げる目標に対してどのようにサポートできるかという視点に立つことが重要です。

  • 4つの側面のそれぞれで目標が達成されることは、理想的な状態に近づくことである。つまり「活発」で、経済的にも情緒的にも「安定して」おり、「社会と繋がっている」 - それは、従業員が幸せで健康的であり、生産性が高く、仕事にコミットできることの核となる。
  • 企業は、いずれの側面でも全く同じ問題を抱える従業員は2人としていないということを理解し、従業員が抱える問題を解決できる総合的なソリューションを策定する必要がある。
  • 個々人の問題に則した解決策を提供できれば、従業員のエンゲージメント向上につながる。従業員に実質的に大きなインパクトを与えるプログラムを策定したいと思うなら、企業はシフトチェンジをする必要がある。

Well-being3.0へ向けて、どのように企業はシフトチェンジするか?
トータルリワードの他の分野と同様、企業はよりフレキシブルでカスタマイズできるアプローチにシフトしつつあります。つまり、従業員がさまざまなウェルビーイングメニューから自らのニーズに合致したプログラムを選択できるものが増えてきています。より個人に則した総合的なアプローチの展開に際し、企業は次の6つのステップを取ることが有効です:

  1. 上述のウェルビーイングの4側面における自社の現状を、企業と従業員の両視点から評価する。
  2. 1の評価で判明したギャップを埋めるための目標を設定し、プログラムの設計理念と戦略の優先順位を策定する。
  3. ウェルビーイングの各プログラムを設計する。4側面それぞれの意思決定支援と教育的ツールを考慮する。
  4. 決定したプログラムを遂行するためのベンダーソリューションとソフトウェアツールを分野ごとに考慮する。(例えば、身体的側面であれば、食生活とエクササイズのトラッキングツール、経済的側面であれば、退職カウンセリングセッション、情緒的側面であれば、従業員支援プログラム、社会的側面であればポジティブな職場カルチャーや多様性推進のためのeラーニングプラットフォームやワークショップなど)
  5. ベンダーの管理と進捗管理のプロセスの導入
  6. キャンペーン、トレーニング、コミュニケーション、個人ごとのソリューションの導入などを通して、従業員をプログラムに積極的に取り込む。

総合的なアプローチで取り組むことにより、ウェルビーイング施策を単なるキャッチコピーから、従業員に必要なソリューションへと変えることができます。個々の従業員をサポートし尊重する文化を作り出し、従業員を長いスパンでサポートしていくことが大切となります。時の経過とともに従業員のニーズは変化します。その変化に対応して進化するプログラムを設計することが重要ポイントです。また、全従業員を対象に制度を見直すのではなく、一定の従業員グループ(例えば、定年延長による60歳以上のシニア従業員)に対する福利厚生にターゲットを絞ってプログラムを考えるときに、4側面からのウェルビーイングアプローチは効果的といえるでしょう。

最後に。ウェルビーイングの重要性
多くの企業が従業員のウェルビーイングの重要性を理解しており、弊社のGBA調査によれば、従業員のウェルビーイングが高い企業ほど、業績がよいだけでなく、エンゲージメントの高い従業員が多く、ストレスを強く感じている従業員は少なく、欠勤や不完全な就労による労働力の問題が少ないなど、ビジネスにより良い結果をもたらしています。

低い失業率や少子高齢化する労働人口を背景に人材獲得がより難しくなる現在、ウェルビーイング施策は、人材獲得・リテンションに極めて重要であり、また職場の生産性や企業の業績に直結する影響を与えます。さらに活発で経済的にも情緒的にも安定しており、社会との繋がりを維持している従業員の存在は、企業にとって強力な労働力になるだけでなく、世の中のより良い変化の推進力になるはずです。企業にとって高いハードルではありますが、努力し挑戦する価値は大いにあるのです。


(*1) 隔年でGlobal Benefits Attitudes Survey(以下、GBA調査という)を実施しており、2017年は、日本を含む世界22か国の中・大規模企業で雇用されている31,000人を対象に実施した。

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