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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

HR Tech、人工知能(AI)時代に、まず着手すべきことを考える

執筆者 服部 崇宏 | 2017年10月1日

金融領域においてFin Techという言葉が出てきたかと思えば、人事領域においてはHR Techという言葉が出てきた。日本においてHR Techというキーワードをよく聞くようになったのはここ1、2年ではないかと思うが、人事領域ではどのようにITを活用することが考えられるのか、また活用にあたり前提となることは何かを考えてみたい。
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【タレントマネジメント領域における人工知能(AI)?】

給与計算などのオペレーション業務においては古くからITの活用が進んでいるが、昨今人事領域で話題になっているのは、タレントやハイポテンシャル人材を発掘・育成していく場面においてITを活用するということだろう。そこで出てくるキーワードは、「ビッグデータ」や「人工知能(AI)」である。人工知能(AI)が、各社で求められる資質やスキルを「適確に」発見、理解し、人を「適確に」評価し、次世代リーダーとして誰がふさわしいか示してくれ、仮に足りないスキルがあればどこをどう伸ばせばよいか教えてくれる・・・、それによって人材の適正配置(適所適材)が実現できる・・・のだろうか。

【人工知能(AI)とは】
そもそも現時点における人工知能(AI)とはどういうものかを今一度調べてみた。SF映画で描かれているような「人間のような知能を持っているコンピュータ」という想像をしがちであるが、少なくとも現在においてはそのレベルには到達していないようだ。人工知能(AI)は定義自体定まっているわけではなく、人間がプログラムを書いて動作するもの、機械学習(Machine Learning)によって機械自ら判断ロジックを学ぶものなど様々な種類があるようだ。私たちが人工知能(AI)に期待してしまうのは、機械学習によって私たちが普段判断していることや気づかなかったことを私たちに代わって判断してくれるということではないだろうか。

では、そもそも機械学習とは何か。伝統的なコンピュータは、入力情報、ロジック(計算式)、動作(出力情報など)を人間があらかじめインプットしておき、それに従って答えを導く。それに対し、機械学習はロジックの部分を自ら学習する。そのために入力情報と動作(出力)のセットを大量にコンピュータに与えることにより、自らロジックを生成していくという流れになるようだ。これは簡単なことではないようで、例えば画像認識で何の道路標識かを判断させる場合では、光のあたり具合(昼なのか夜なのか、順光なのか逆光なのかなど)や、霧など大気中の障害物があるかなど様々な条件やその程度により見え方が異なるため、莫大な数の画像の学習が必要になり、それが数十万、数百万レベル、もしくはそれ以上の学習が必要になるのかもしれない。少し調べて考えてみただけで、人間の脳は想像を超えた高度な能力を持ったものであるのだと今更ながら感じた。

【人事データとロジック】
さて、ここで話を元に戻すと、人材の適正配置を人工知能(AI)にお願いしようとなると、正しいロジックを人間が教えるか、機械学習に足るだけの大量データを与えることが必要となる。

まず、正しいロジックを人間が教えられるか。人員の適正配置のために考えることを単純化すると、役割・職務の定義、求められる人材要件の定義と、その要件該当性を判断するための情報の入手、そして適切な評価ではないだろうか。そもそも、人間が適確な入力情報と正しいロジックを発見できているか、それ以前に、適切な入力情報をどのように作り上げアップデートし続けるか、ということが問題になりそうである(しかも一般論でなく自社にとって)。

他方、機械学習のためのデータを大量に集めることが可能か。前提として、タレントマネジメントは一般論ではなく、企業(事業の特性、戦略、文化など)、人(資質、スキル、経験、本人の志向、バックグラウンドなどの傾向)、外部要因(人材、ビジネス双方のマーケットの現在と将来の展望など)により、「自社にとって必要な人材」という観点が重要であるため、外のデータに頼ろうとするのは本末転倒だ。そもそもどのくらいの人数を適切に把握、マネージする必要があるのか、と考えると、グローバルベースでも万の単位でタレントマネジメントを本社主導で実施している企業がどれだけあるだろうか。コンピュータが学習にたるだけの種類と量の情報を確保できるか、以前に、その力量が発揮される管理スパンなのか、という疑問が生じる。

【今こそEvidence-basedに立ち返る】
ここまで考えてきて、タレントマネジメントで人工知能(AI)を活用していくことはそう簡単ではないと個人的には感じている。少なくとも、現時点において過度な期待をするよりは、人間が自社において人材の適正配置を実現するためのデータとロジックを改めて整理、確立することが現実的ではないだろうか。これは以前から弊社が提唱している、Evidence-based HRの中身をもう一度考え直すことであるといえるかもしれない。

2017年7月号のニュースレターで触れているが、私共が訪問しているお客様からは人事戦略を立てるのに十分なデータがないという声がよく聞かれる。現状人事部門で保有しているデータは、現場の評価や実績(営業であれば売上実績など)であることが多いだろう。それを部長、事業部長、役員などのマネジメント層の候補者に対する判断基準に使えるのだろうか。おそらく答えは、使えないわけではないがそれだけでは確信が持てない、という感じではないだろうか。例えば、飛びぬけた売上実績をあげた営業担当と目立たない営業担当がいる。前者は一匹狼とかまわりとの連携ができないという声がある一方、慕っている後輩もいる。後者は誰もが人柄について太鼓判を押し他部門からの評判もよい。誰が次期マネージャーにふさわしいか、という点は頭を悩ませているお客様も多い。しかし、他にデータがないので疑問を持ちながらも手持ちの数字や現場の(属人的な)意見で判断せざるを得ない現状がある。

この点は、プロフェッショナルとマネジメントは必要な資質・スキルが異なるとして、パーソナリティアセスメントを行うことにより、新たな視点を取り入れる動きが最近活発化している。弊社ではSavilleというアセスメントツールを利用しているが、先天的要素が強い資質も見ることができ、日ごろ表に出ていないパーソナリティを配置・登用の判断に活用し、その精度を上げる支援をしている。非常に豊富なデータの蓄積を基にした、新卒・若手、プロフェッショナル、マネージャー、エクゼクティブといった階層でのグローバルレベルのベンチマークも得られる。Savilleではチームに入ったときにどのような振る舞いをする傾向があるかを見ることもできる。人材の適正配置においては個と集団という両方の視点を持つことが有用だろう。仮に個々が優秀だとしても、同じような人が集まった場合に集団として高いパフォーマンスが出せるかは別問題だからである。どのようなデータに着目しどのようなロジックで今と将来に向けた適正配置という答えを出すのか。運用をまわしながらブラッシュアップしていくのがよいのではないだろうか。

目的は少し異なるが、エンゲージメントサーベイも重要な人事データの1つと言える。パーソナリティアセスメントが個人に焦点を当てるのに対し、エンゲージメントサーベイは組織に焦点を当てる。組織や業務の状況を、社員の目線で現状を把握する。そこに統計解析を実施する、あるいは事業上のデータとのリンケージ分析を実施することで、社員という重要なステークホルダーのエビデンスを、業績向上、それによるよりよい人材の獲得という好循環に向けた基礎データを得、アクションを考えるヒントを得られる。

目的が異なれば必要なデータも異なる。採用やリテンションという観点では、上記に加え報酬の市場水準も重要なデータの1つだろう。

【終わりに】
ここでは人事データの中でほんの一部をご紹介したが、「適確な」データをできるだけ多く収集して、人の適正配置のために御社において「確からしい」ロジックはどんなものなのか考えることからはじめるのがよいのではないだろうか。私はIT業界出身であるが、HR Tech領域において様々なキーワードが一人歩きしているような気がしたので今回自分なりに少し考えてみた。「自社にとって」という視点で、ある程度の確信を持てるレベルの人事データ、ロジックがそろってきたときに初めて、システム、そして人工知能(AI)の助けを得ることができるようになるのではないかと思う。


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