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Future of Work|Talent|Total Rewards
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執筆者 森田 純夫 小川 直人 青木 遥香 | 2022年2月8日

本稿では、WTW(ウイリス・タワーズワトソン)によるグローバルでの昇給率調査(July Edition、December Edition)、および日本の従業員報酬サーベイの概況を確認しつつ、国内外従業員について処遇検討上の論点をチェックポイント形式で確認したい。

グローバルでの昇給率調査結果について

2021年はJuly edition(“7月レポート”)とDecember edition(“12月レポート”)という形で昇給率調査レポートを2回発行した。7月レポートは5月から6月にかけて集計、12月レポートは10月から11月にかけて集計している。いずれも役職員の階層別に実績と将来見込みを集計しているが、将来見込み(2022 Forecast)については7月レポートと12月レポートで一定程度動きが見受けられたため、こちらの概況をご紹介したい。具体的には、多くの国において、7月レポート時点と比べて12月レポート時点では、2022年の昇給予算について統計値が上昇している傾向が確認されたため留意が必要と考えられる。

本調査は130か国以上を対象に各回につき約2万社からの回答をもとに分析を実施しているが、2回の調査で安定的に統計値を確認できる主要な96か国に絞って結果を見てみると、2022 Forestの統計値は足下、上昇傾向にあることが確認された。

図表1:2022年の昇給予算見込み(2022 Forecast)について7月レポートと12月レポートの比較
(全業種・Executiveの状況。他の階層においても概ね同様の傾向。なお、昇給凍結(Salary Freeze)企業を除いて比較)
  増加した 横ばい 減少した
75%ile 52か国 20か国 24か国
50%ile 42か国 35か国 19か国
25%ile 60か国 26か国 10か国

2022年の昇給予算について短期間の間に統計値に現れる程度に上方向の見直しが見受けられる背景には、1)世界的なインフレ圧力(※1)、2)“Great Resignation”(「大量退職時代」)と呼ばれるような欧米での人材の流動化(※2)、3)リモートワークの定着による組織へのアタッチメント(自社への愛着)低下(“tough-to-engage”)(※3)、などが考えられ、各国の昇給を含む処遇検討について、日系多国籍企業においても「例年通りの対応」とせず、いつも以上に慎重な見極めが必要な年になっていると考えられる。

《昇給率調査レポートのご購入は本稿末尾の連絡先へお問い合わせください》

日本における従業員報酬サーベイ調査結果

弊社では、世界共通のメソドロジーを用いた従業員報酬サーベイを、110カ国以上で実施している。日本の参加企業数は堅調に増加しており、2021年には前年比15%増の362社と、過去最多を更新した。また、日本のサーベイ継続参加率は80%を超え、アジア・太平洋地域の他国に比して高い水準にあることからも、日本でビジネスを展開する企業において、報酬データへの関心が継続的に高まっていることが伺える。この背景には、ジョブ型雇用の拡大や独禁法上の制約強化(※4)なども関係していると考えられるが、本稿では労働市場の流動化に着目したい。

図表2は役員・管理職ポジションと年齢の関係を示したものである。各ポジションで集計される対象者の年齢について日本企業と外資系企業という二つのグルーピングを行い、統計値を示している。10%ile値は、若くしてそれぞれのポジションに登用されているという意味で昇格スピードが速い「ファスト・トラッカー」と看做せるが、課長相当、部長相当、役員と階層が上がるにつれて、日本企業と外資系企業の差が大きくなっており、管理職初期段階での若干の登用スピードの差が、結果的に役員段階では5年程度の差まで拡大している現状が読み取れる。

図表2:役員・管理職ポジションと年齢の関係
(ウイリス・タワーズワトソン 2021年報酬サーベイを用いて分析)
ポジション 企業区分 10%ile 25%ile 50%ile 75%ile
役員(EX) 日本企業 50歳 52歳 56歳 59歳
外資系企業 43歳 46歳 50歳 55歳
部長相当(M3) 日本企業 43歳 46歳 51歳 54歳
外資系企業 39歳 43歳 47歳 53歳
課長相当(M2) 日本企業 39歳 43歳 48歳 53歳
外資系企業 36歳 40歳 45歳 50歳

ジョブ型雇用が根付いている欧米においてはジョブごとに報酬ベンチマークすることが一般的だが、メンバーシップ型雇用が一般的である日本では特定のジョブに捉われない形で、すなわち資格・等級に紐づいた報酬設計を行う企業が大半である。このような違いがあるなかで、デジタル人材に代表されるような、各社が喉から手が出るほど欲しい人材について、外資系企業や一部の日本企業が「積極的な」報酬水準の提示を行っている。事業形態・環境によっては、ごく限られた数であってもずば抜けた能力・スキルを持つ人材を抱えることができるかどうかが事業の成否を握ることもある。自社においてそのような人材を必要とするか(そして、それはどのような人材なのか)、他社から自社の中核人材を引き抜かれるようなリスクはないか、自社の報酬戦略を根幹から見直すことが各企業に求められている。

日本企業固有の問題としては、優秀な人材の獲得・リテンションにおいては、前述の通り、若手の登用スピードに日本企業と外資系企業で一定の差があることを認識することが重要である。仮にジョブもしくは階層ベースで報酬競争力があるとしても、同年代の人材で比べると報酬競争力が劣っているという可能性があり、対象者もこうした視点から社外の環境に目が向くことも多い。報酬のみならず、その社員が得られる機会がどのようなものか、ということを、社員目線で考え、デザインし、実践することが求められよう。日本企業のなかでも「昇格・登用競争力」とでもいうべき側面では取組みに差があり、その差は今後さらに広がるものと私たちは見ている。コロナ禍であることもあり、今後のキャリアについて様々なことを考える社員も多い。それをチャンスとリスクのいずれと位置付けるかによって、実際の結果には違いが出てこよう。単に若手を登用すればよいということでもなく、中堅・シニア人材の活用とポストオフ(+雇用・定年延長)などの課題も玉突きで発生する。まずは、自社の状況を多角的に分析することで課題を特定し、自社の処遇戦略を見直すことから取り組まれることをお奨めする。

処遇検討上のチェックポイント

以上を踏まえつつ、国内外従業員の処遇検討上のチェックポイントを整理しておきたい。

図表3:処遇検討上のチェックポイント
(国内外従業員の処遇検討上のチェックポイント)
  今年のチェックポイント
海外拠点の処遇検討
  • 現地からの昇給予算の起案に対して機械的な判断をせずに例年よりも丁寧な検証を行う(※5)
  • これを機に、賞与額・昇給率のみの検討ではなく、主要拠点の報酬制度の競争力を(再)検証する
国内拠点の処遇検討
  • 政府が後押しする分配の議論、また税制上の手当てを踏まえ、どのような昇給対応を取るか
  • 日本企業と外資系企業の処遇差についてどのように考えるか(水準差だけでなく、登用スピード、仕事の機会の提供における差異。また、LTI対象範囲の差)(※6)
  • 役員報酬と従業員報酬について報酬の方針が整合しているかどうか(※7)

たかが報酬、と思われる向きもあるかもしれないが、報酬制度には、各社固有のカルチャーや理念なども含め、その企業の本質が必ず現れる。これを機に各拠点(日本も含め)の報酬制度の妥当性を再検討してもよいように考えられる。

WTWでは、様々な視点からの分析を可能とするデータソリューションを提供しており、変化を続けるマーケットにおいて企業の皆さまのお役に立てるよう、サービスを継続的に開発している。今後の弊社の発信にご期待いただければ幸いである。

《従業員報酬サーベイへのご参加については本稿末尾の連絡先へお問い合わせください》

お問い合わせ:

WTW

Work & Rewards

森田 純夫、小川 直人、青木 遥香

Email: twjpdata@willistowerswatson.com

脚注

※1 主要国でのインフレ圧力とは別に、トルコなど著しいインフレが問題視されている国については別途の検討が必要。高インフレ下においては、昇給率の見極めだけでなく、別途の手当ての要否(lump sum payment or allowance)、昇給頻度(more frequent salary increase)、他の通貨での支払い(Salary denominated or paid in hard currency)などが検討の俎上にあがる。

※2 欧米主要国における“Great Resignation”は、見方を変えれば、“Great Hire”でもあり、好況な業種・企業においては積極的な人材獲得が行われており、リテンション(人材のつなぎとめ)リスクは例年以上に顕在化しやすく、弊社の経験上、現地から通常よりも積極的な昇給予算が起案されてくるケースもすでに多く見られている。

※3 リモートワークはソロワーク化に繋がりやすく、個人としては、他の会社・領域でも自分は通用するのではないかという遠心力(組織・チームへのアタッチメントの低下)を構造上有してしまう。あらためて「ここがいい」、もしくは「この会社で自分が自分らしくあれる(I can be myself at this firm)」という感覚を高めるような施策を金銭・非金銭で仕掛けていく必要がある。

※4 2018年2月15日公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会 報告書」において、従業員の賃金を含む、企業間の情報交換が独占禁止法に抵触する可能性について言及されている。https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf

※5 米国における特異な昇給傾向はすでに下記の報道等でも確認できる。

・“米ホワイトカラーの賃金上昇率、過去20年で最大に”、 The Wall Street Journal, 2021年12月27日

https://jp.wsj.com/articles/in-hot-job-market-salaries-start-to-swell-for-white-collar-workers-11640562779

また、台湾半導体企業TSMCの「20%昇給」のニュースなども記憶に新しい。

・“Taiwan’s TSMC to implement 20% pay increase 2021: Report”、Taiwan Times, 2020年11月13日

https://www.taiwannews.com.tw/en/news/4052667

※6 経済産業省 CGS研究会(2021年12月27日開催回)においては、幹部候補・管理職に対する株式報酬の導入が必ずしも進んでいないことに対する課題認識が示されている。

※7 コーポレートガバナンス・コード導入以降、多くの日本企業においてインセンティブ報酬を拡充する方向での役員報酬改革が進んできたが、従業員の処遇について見直しが進んでいない場合、役員に対する報酬の方針と、従業員に対する報酬の方針との間で整合を欠く状況が生じている可能性がある。

執筆者

Work & Rewards 日本代表

ディレクター
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