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執筆者 森畑 映美 植竹 暁 | 2021年11月9日

ハイブリッドワーク(オフィス勤務とリモートワークを組み合わせた働き方)は、聞こえは良いものですが、実際の導入となると一筋縄ではいきません。働き方改革やコロナ禍などによって勤務形態にも多様性と柔軟性が求められる今、組織は何を考え、どう動けばよいのでしょうか。
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※本記事は、ウイリス・タワーズワトソンのロンドンに在籍するコンサルタントにより執筆された記事の和訳版です。

ウイリス・タワーズワトソンは、様々な業界の人事担当者にお集まりいただき、新型コロナウイルスをきっかけに導入が進んでいる「ハイブリッドワーク(オフィス勤務とリモートワークを組み合わせた働き方)」について議論の機会を持ちました。

この新しい働き方には導入に向けたさまざまな課題が存在し、従業員・マネージャーの間でも受け止め方は異なります。また、このような働き方の大きなシフトの実現には、複数のステークホルダーを巻き込む必要があり、会社ごとに考慮すべきポイントも異なるため、慎重な検討が求められます。

しかし、人事担当者の方々にお話を伺い、ウイリス・タワーズワトソンの提唱するエンプロイーエクスペリエンス(従業員体験―通称EX)の概念に当てはめて考えることで、ハイブリッドワークをはじめとした新しい働き方の導入を検討する組織が考えるべき要素が少しずつ見えてきました。本日はその中から10のポイントをご紹介します。

  1. 01

    厳格なルール作りよりも、まずは明確な方針を

    まず考えるべきポイントは、新しい働き方を導入する目的や背景、原則などを含む大きな方針が明確にされ、関係者にそれが理解されるという、導入に向けた基盤を構築することです。詳細なガイドラインの決定や試験的な運用を行う上でも、従業員が「何のためにこの新しい働き方が導入されるのか」を明確に理解し、ある程度改善余地のある大まかな原則の下でまずは試してみることで、組織や従業員のニーズに合った働き方の再集形を柔軟に模索することが可能となります。また、このような働き方のパラダイムシフトにおいては、厳格なルールに従業員を従わせるというトップダウンなアプローチではなく、従業員と一緒に制度を作っていくという姿勢を見せることが、従業員からの信頼の獲得・維持にもつながります。

  2. 02

    多様なニーズに対応する柔軟性

    今回のハイブリッドワークに関するディスカッションでは、参加者の88%が、ハイブリッドワークの導入においては、組織と従業員のニーズをそれぞれくみ取ったバランス型のアプローチを使用したいと述べました。しかし、複数の関係者のニーズに合わせるためには、導入・運用する企業側に柔軟性が求められます。オフィスや工場、研究所といった異なる職場で働く社員に同じ働き方を求めることは適当ではありません。従業員がより働きやすく、無駄なく効率的に業務を行えるような仕組みをつくる上で、個々の従業員の状況を考慮することは必須であり、このような柔軟性は従業員のウェルビーイング向上にもつながっていきます。

  3. 03

    声を聞くことが大切

    従業員のエンゲージメントを高めることや従業員に選択肢を提供すること、また信頼、ウェルビーイング、公平性などが、ハイブリッドワーク戦略を策定する際にディスカッションの参加者が重視した点でした。戦略策定のカギとなる論点や検討が必要なポイントを効果的に捉えるために、組織は推測に基づいて議論を進めるのではなく、従業員の声を収集し活用する必要があります。戦略構築の前に、フォーカスグループやインタビュー、アンケートなどを使って従業員の声に耳を傾けることは必須であり、これらを通じ得られた情報は、最終的な働き方の戦略や方針を裏付けとなるデータにもなります。

  4. 04

    働く環境における4つのC - つながる(Connect)、伝える(Communicate)、協力する(Collaborate)、つくる(Create)

    COVID-19の流行以前、オフィスとは業務を円滑に進めるための価値ある不動産であり、フリーアドレスやフレックス制などオフィスでの業務効率を最大化することにフォーカスが置かれていました。職種や立場によって微妙な違いはあるものの、業務の遂行がオフィス以外でも可能であることが証明された昨今、組織はオフィスで働く意義を今一度考えるべきフェーズにあります。多くの場合、オフィスとは従業員同士がつながり、コミュニケーションを図り、協力し、新しいものを生み出すための環境です。今後はオフィススペースを一定の体系や秩序を維持するため環境と位置付けるのではなく、仕事を効果的に進めるために必要な根源的な要素(4つのC)を包括できている環境なのか、という観点から考えることが今以上に重要となってくるでしょう。また、自宅での作業環境が整っていないなど、オフィススペースを利用しなければいけない個人的な理由なども配慮されるべきです。

  5. 05

    多様な働き方を受け入れることは、同時にそのリスクとのバランスを考えること

    働き方の柔軟性を高めることで、従業員は自身のニーズにあわせて働き方をカスタマイズできるようになります。そしてそれは、従業員の働き方についての自由度が高まるということも意味します。自由度の向上は、同時に組織や従業員、または特定のグループに対する潜在的なリスクをはらむことを理解しておく必要があります。働き方の柔軟性を高めることが上司と部下間やチーム内での仕事の不透明性につながったり、報酬、昇進、能力開発の機会に対する公平性が損なわれたりしないようにする責任が組織にはあります。

  6. 06

    エンプロイーエクスペリエンス(EX)に合わせる

    従業員体験に関する画期的な調査から、HPEX(High Performance Employee Experience=高業績企業群に共通して見られる従業員体験)を提供するための重要な要素が明らかにされ、リモートワークと通常のオフィスワークそれぞれが従業員体験に与える影響が分析されました。その結果、ハイブリッドワークの効果的な実施を可能にするために取り組むべき優先順位の高いEX分野のトップ3は、「効果的なバーチャル・コラボレーション」、「従業員の意見や発言の機会の創出」、「従業員が成長の機会を活用するための新しい方法」であることが分かりました。

  7. 07

    アトラクション(惹きつけ)とリテンション(引き留め)に関する視点を持つ

    ロバート・ウォルターズ、ヘイズ、マイケル・ペイジなどの人材紹介会社は、市場環境が改善し、世界的な雇用の増加を見込んでいるとコメントしています。特に、新しい人材を獲得するための競争は激しくなるでしょう。企業がハイブリッドワーク戦略を策定する際には、将来の潜在的な従業員についても考慮する必要があります。新しい柔軟な働き方は、雇用主としての魅力にどのような影響を与え、人材獲得競争においてどのような役割を果たす可能性があるか、という視点を持つことが重要になります。

  8. 08

    「対面 vs バーチャル」を意識する

    調査結果によると、リモート/ハイブリッドモデルで働く従業員の割合は、3年前のわずか9%という水準から56%へと急増する見込みです。会議や取り組みへの参加、グループワークショップなどの場面で均等な機会が提供されるよう、企業にはバーチャルな世界とフィジカル(対面)な世界のギャップをいかに埋めるかという視点と取り組みが必要になります。

  9. 09

    Be global, think local (グローバルとローカル両方の視点を持つ)

    新しいハイブリッドワーク戦略に取り組むグローバル企業にとって、ローカルなマインドセットを維持することは重要です。COVID-19の流行以前には、画一的なアプローチは通用しませんでしたし、今後もそれは変わらないでしょう。地域が異なれば、コロナ禍においてどのようなフェーズにあるかも違ってきます。また、それぞれの地域のインフラや経済状況によっても、ハイブリッドな働き方への効果的なアプローチが変わってきます。

  10. 10

    リーダーを巻き込む、マネージャーに働きかける

    多くの人事担当者は従業員に焦点を当てていますが、効果的なハイブリッド・ワーキング戦略を実現するためには、リーダー(経営層)とマネージャー(管理職層)が2つの重要なステークホルダーとなります。リーダーたちは、どのようなアプローチをとるべきかあらかじめ考えているかもしれませんが、人事部は早い段階で彼らを巻き込み、合意形成を行うべきです。また、マネージャーとの連携も重要で、チームの柔軟性に対するメンバーの期待や機会についてのコミュニケーションの取り方や管理の仕方について理解してもらう必要があります。彼らを早い段階で巻き込むことで、効果的なハイブリッド・ワーキング戦略を成功裏に実行することができます。

最後に

日本においても、COVID-19の流行に伴いリモートワーク導入率は飛躍的に向上しました。2019年度には全体で13.6%であった在宅勤務率も、2020年4月以降には56.4%にまで高まりました。一方で、生産性の低下やコミュニケーション・関係性の量・質的低下などについて課題感を覚える企業もあり、リモートワークの導入率は現在低下傾向にあります。*1

働き方改革によって多様な価値観や柔軟な働き方が推進される現在、ワークスタイル・ライフスタイル双方に大きな影響を持つリモートワークは従業員の関心が最も高いトピックの一つであり、一方的な導入・廃止は社員のエンゲージメントに対しネガティブな影響を持つことは想像に難しくありません。国内ではCOVID-19の流行が沈静化しつつあり、今後リモートワークをどのように扱っていくべきかについて判断する段階に差し掛かってきています。その際、目に見えるメリット・デメリットだけでなく、従業員の心理的側面まで含めた多角的な視点と繊細なバランス感覚による判断が重要になるといえるでしょう。

この記事を読んでいただきありがとうございます。皆様のお役に立てる、示唆に富む内容となっていれば幸いです。いずれのテーマについても、より詳しいお話をお聞きになりたい方は、ウイリス・タワーズワトソンのコンサルタントまたは下記の連絡先までお問い合わせください。


出典

*1 出典:日経「スマートワーク経営」調査結果(日経リサーチ コンテンツ 事業本部編集企画部、2020 年12 月15日))

執筆者

リードアソシエイト
Employee Experience(EX)

南洋理工大学 (NTU) 卒業後、外資系PR会社を経て2019年入社。戦略的PRのバックグラウンドを強みとし、M&Aにおける企業の文化統合や、人事制度改定、組織変革などチェンジ・マネジメントおよびコミュニケーションに関する戦略計画や実行支援を行う他、従業員エンゲージメント向上や組織開発に関連するプロジェクトにも参画。


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