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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

ニューノーマルに向け企業が留意すべきD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)のポイント

―従業員のエンゲージメント向上の観点から―

執筆者 祁 岩 | 2020年10月13日

コロナ禍の状況であっても、未来を見据えD&Iの推進は重要課題として継続的に取り組んでいくことが重要である。本稿では、従業員のエンゲージメント向上の観点からニューノーマルに向け企業が留意すべきD&Iのポイントを2点に絞って説明し、併せて弊社の企業のD&I推進に対するサポートについてご紹介する。
Compensation Strategy & Design|Work Transformation|Employee Experience|Ukupne nagrade
Risque de pandémie

D&I(Diversity&Inclusion:ダイバーシティ&インクルージョン、以下D&Iと呼ぶ)は従業員のエンゲージメントの向上につながり、さらに生産性、イノベーション、財務指標に影響をもたらすことが多くの企業で認識されており、D&Iを推進する施策が導入され始めている。D&Iとは、企業経営において、年齢、性別、国籍、学歴、職歴、人種、民族などの違いにとらわれず多様な人材を登用し、それぞれの個を尊重し、認め合い、平等な環境で良いところを活かすことを意味する。多様な働き方の提示と受け入れはD&I推進の基礎ともいえる。新型コロナウイルスの感染拡大で企業は従業員・顧客の健康維持、感染防止だけではなく、在宅勤務という新しい勤務形態下で業務を推進して事業への影響を最小化し、停滞しがちな業績の回復に向けた計画の実行が求められるとともに、ニューノーマルに適応できる今後のビジネスモデルを再考する準備をすることも求められるという状況に置かれている。このような状況の中では、D&Iの促進が後回しにされ、後退する可能性がある。これに関して、マッキンゼー・アンド・カンパニーが5月に「Diversity wins:How inclusion matters」という報告書を発表し、その中で、ダイバーシティが進んでいる企業ほどより危機対応力が強く、コロナ禍ではこの特徴が顕著に見られている、と述べている。つまり、多様な背景を持つ人材を活用することは、環境変化・危機対応に強い組織につながっており、今の厳しい状況下であっても、未来を見据えD&Iの推進・促進を重要課題として継続的に取り組んでいくことが必須である、と示唆している。本稿では、従業員のエンゲージメント向上の観点からニューノーマルに向け企業が留意すべきD&Iのポイントを2点に絞ってご説明し、併せて弊社が提供可能なサポートについてもご紹介したい。

ニューノーマルに向け企業が留意すべきD&Iのポイント

世の中にはさまざまなエンゲージメントの定義はあるが、弊社では、「持続可能なエンゲージメント」という概念を提唱している。それは、「エンゲージメント」、「可能な環境」、「活力」という3要素で構成されており、後ろの2つは「エンゲージメント」を持続可能にさせるものである。

従業員は、必要なリソース・情報のある環境下で、メンバーとのチームワークや協働を通じて、日々の業務から活力を感じ、達成感を感じられる仕事することで、持続可能なエンゲージメントを持つことができる。2020年はコロナの影響で、企業は働き方に対する大きな変革を余儀なくされた。これまでなかなか進まなかった在宅勤務の推進が、コロナを契機に一気に進みつつある。多様な働き方がD&I推進の引き金の一つであるならば、企業は、これを契機ととらえて在宅勤務への対策に工夫・留意をすれば、D&I推進を加速させることができる、と考える。持続可能なエンゲージメントの「可能な環境」、「活力」のそれぞれについて、D&I推進の観点からの着目点を考えてみたい。

  1. 可能な環境の提供(リソース配分、情報共有の平等化)

    「持続可能なエンゲージメント」の3要素のうちの“可能な環境”、すなわち従業員が生産性高く働ける環境を提供することが、このような状況下において非常に重要となる。新型コロナウイルスの感染拡大により、各企業での在宅勤務(テレワーク)の導入が急速に増えている。これまでも働き方改革推進の一環から、在宅勤務を導入する企業もあったが、”一部の従業員のみが制度利用対象者”、”制度はあるものの、利用しづらい雰囲気がある”など、実際の利用は必ずしも進んでいなかったのが実情ではなかろうか。コロナでほとんどの会社では、コーポレート業務などを中心に可能な限りの業務を在宅勤務に切り替えている。こうして導入された在宅勤務においては、従業員に必要なリソースが適切に配分されているか、仕事にかかわる情報が等しく共有されているかが課題となっている。

    従業員に各人の仕事を効率的に行うために必要なリソースを提供することは、在宅勤務で生産性を維持・向上するうえで企業にとって必須のアクションといえる。業務に必要な性能を備えたPC、タブレット、高速無線LANなど、このニューノーマルに適応するのに必要なリソースが必要な従業員に支給されているのか、という点からの検証が必要となる。その際、役職・等級によってPCのスペック、高速無線LANの通信量などが異なる、といったことが起こっていないであろうか。そもそもどのような職務にどのようなツールが必要なのかということが、組織としてどの程度把握できているであろうか。ジョブ型の議論が盛んだが、各人のジョブが定義されていなければ、生産性を高めるうえで必要なリソースを定義することすら難しい。職務に必要なリソースを職務に応じて等しく配分することが重要である。

    在宅勤務でこれまでとは異なる仕事スタイルへの移行を余儀なくされた中で、一番大きく変化したのはコミュニケーションスタイルであろう。部門間、上司部下間、同僚間の対面コミュニケーションが激減し、オンラインミーティング、メールが主なコミュニケーション方法となっている。多くの企業にとって、会社方針、部門方針の展開はもちろん、普段の業務に関する情報が従業員に同タイミングに、同品質で届いていることの重要性が増している。一つの仕事に関わるメンバーは全員がオンライン会議に呼ばれているか、メールで共有すべき情報がすべて共有されているか、そして情報共有はタイムリーかつ正確であるか。こうしたことを常に確認し、情報共有のばらつきがなく平等にメンバーに共有されていることは極めて大切である。情報共有は仕事を進めるうえで必要な材料だけではなく、従業員側から自分が会社・上司に平等に扱われているか(均等な機会、相互尊重を含む)を測る物差しでもある。部長が課長に、課長からメンバーに伝えるという、これまでのカスケードダウンでのコミュニケーションがリモートワーク下で同様に機能しているのか、そこでの時間差や情報の格差が、社員にどのような心理的影響を与えているのかを確認する必要がある。

  2. 活力の維持

    (1)達成感の維持

    在宅勤務という新しい勤務形態の浸透に伴い、従業員の不安感や孤独感が高まっており、特に評価に関する不安を抱えている従業員が多くいるということがパーソル総合研究所の「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」で明らかになっている。

    在宅勤務で上司と部下が顔合わせで仕事をする時間が極めて少なくなっており、部下の行動を日々観察し、適宜指示・指導を行うことができなくなっている。成果評価、プロセス評価のいずれにおいても、評価の根拠となるファクトをどう集めるのかについて、工夫が必要となる。たとえば、部下の業務の進捗や取り組みプロセスが把握しにくくなっているのであれば、これまで年間で設定し、中期に振り返りをしてきた目標設定とその確認を月単位、週単位に細分化し、定期的に進捗確認をする。そうした時間を設けること自体が上司と部下の接点を増やし、見ていてくれている、わかってくれている、という実感を高めることにつながっていく。オンラインコミュニケーションツールを利用すれば、日報・週報告、定例ミーティング、1on1など方法の自由度は広がりそうである。

    経済産業省が発表した「ダイバーシティ2.0一歩先の競争戦略へ」では、従業員の多様性を生かせるには、管理職の行動・意識改革が必要、部下に対する人事評価にダイバーシティの要素を入れて、多様なマネジメントを促進する必要があると指摘している。コロナで起きっている人事評価上の課題は、まさに管理職の意識と行動という観点からも、D&I推進に意味があると考えられる。

    (2)価値や経験の提供

    在宅勤務により、従業員の会社の中での日々の経験自体が減少する。弊社では、この企業における日々の経験を「エンプロイー・エクスペリエンス(Employee Experience:EX)」と定義している。これは、会社・事業の存在意義(Purpose)、仕事のやりがい(Work)、リーダーのあり方や企業風土、社員のあるべき姿(People)、トータルリワード(Total Reward)という4つの要素で構成されており、従業員の会社に対するエンゲージメントを向上させる大きな要因である。組織、人との直接的な接点が激減する在宅勤務下において、これまでと同じやり方ではエンプロイー・エクスペリエンスは減少してしまう、ということを意識すること、そしてその減少を補うために何ができるのかを考えることが大切である。会社方針・戦略を含む社内情報共有の場を増やすこと、きめ細かなジョブアサインにより一人一人に活躍の場を設けること、新しいスキル、知識を取得できる仕事や研修機会などを提供することなどが従来以上に意味を持つであろう。 

    このエンプロイー・エクスペリエンスは終身雇用に馴染みのないミレニアル世代の離職防止に有効であるといわれている。現在の日本では、急速な少子高齢化の影響から、女性社員、外国籍社員が増えている。この機会に、従来とは異なるエンプロイー・エクスペリエンスを提供できるよう、新しい発想や試みにトライすること自体がD&Iの促進につながっていくのではないか。

    (3)チームコミュニケーションの継続

    チームの人間関係・雰囲気は従業員の活力に影響し、さらに従業員のエンゲージメントにも影響する。在宅勤務のチームメンバーがコミュニケーションをとる場合、オンラインツールがメインになる。職場であればすぐに反応が返ってくる会話も、オンラインツールではすぐに返信が返ってくるとは限らず、コミュニケーションがおろそかになりがちであり、不安を感じる従業員もいる(「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」 2位「コミュニケーション不安」)。顔合わせの少ない環境で「察する」、「空気を読む」などのようなハイコンテクストなコミュニケーションは機能しないので、噛み砕いたコミュニケーションをとれることに留意すべきである。そして、雑談混じりの会議、気軽な会話など、もちろんメンバーの嗜好によるが、お互いを身近に感じられる試みはチームの雰囲気維持・改善、信頼関係の構築に有効であろう。在宅勤務をきっかけに、組織単位でコミュニケーションに対する認識を深め、よく言われているD&I推進に必要とされるコミュニケーションスキル(傾聴、承認・肯定、質問・確認、アサーション)の理解・浸透に留意できればと思う。

ウイリス・タワーズワトソンの企業に対するD&I取り組み支援(インクルージョン・サーベイを中心に)

弊社ではD&I戦略、ロードマップの策定からD&Iカルチャの維持・強化までのさまざまな支援を行っている。

D&Iと従業員のエンゲージメントとの関係を測定するサービスとして、インクルージョン・サーベイがある。このサーベイは、弊社の意識調査設問の中からD&Iと関係の深い設問を抽出し、これを結果指標とし用いるサーベイである。サーベイでインクルージョンの状態や変化を観測でき、インクルージョンの従業員のエンゲージメントへの影響も測定することができる。

また、インクルージョンは1つの内容として従業員のエンゲージメントに寄与しているだけではなく、ほかの施策とのシナジー効果もある。例えば、多様性を尊重している組織では、多様なコミュニケーションに対応できる環境があるだけではなく、従業員は、性別、職歴などの属性を問わずに、成果によって評価を公正・公平に行われる雰囲気がある。従業員に均等な機会を提供している組織では、従業員にリソース配分、情報共有を等しく行われているだけではなく、キャリアで見るときは平等にジョブアサイン、研修、昇進などの機会も与えられる。つまり、この場合は、インクルージョンはタレントマネジメント(評価、育成、昇進)を促すことにも効果がある。

VUCAな社会では、会社も個人も変化への適応能力が求められてくる。今回のコロナでこの重要性が改めて確認された。D&Iとはまさに、異質なもの、変化や混沌とした状態という、予定調和が効かない環境への処方箋であるといえよう。

今後も、継続して、D&Iの新しいトレンド、取り組みなどについて、お伝えして参りたい。


参考資料(参照順)

McKinsey & Company. ‘Diversity wins: How inclusion matters’ (2020.5)

パーソル総合研究所 「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」 (2020.6)

経済産業省 「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」(2020.9)

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