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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

福利厚生保険のコスト削減とガバナンス強化 
~ 国際プーリングの有効活用 (その2) ~

執筆者 岡本 洋一 | 2月 2019年

2017年6月のニュースレターでは、国際プーリングの仕組み、導入プロセス、コスト削減の効果、有効活用に向けての課題等について簡単に紹介しました。本稿では、弊社WTWが毎年実施しております国際プーリングのグローバル調査の結果から見えてくる興味深い点をいくつか紹介します。
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【国際プーリングとは】
まず、国際プーリングについて簡単にポイントを復習しておきます。

  1. 各国の海外子会社の現地従業員に掛けている団体保険(生命保険、医療保険、傷害保険等々)の収支を一纏め(プーリング)することで収支の改善効果が現れ(剰余の発生)、その剰余の一部が国際配当として企業に還元される仕組み
    • 支払った保険料の一部が国際配当して戻ってくるため、保険料のコスト削減となります
    • なお、企業がプーリングのために追加で負担する費用はありません
       
  2. 現地従業員に掛けている保険の設計内容を変更するものではなく、あくまでもファイナンスとしての手法
    • 保険料のコスト削減によって現地従業員が不利益を被るような影響はありません
       
  3. プーリングした保険契約の収支状況は、ネットワーク(プーリングを提供する保険会社等)から、毎年、企業へ決算報
    • 海外子会社の担当者の手を煩わせることなく現地の保険契約の状況を把握、ガバナンスの強化に寄与します

【国際プーリングの調査について】
上述の通り、国際プーリングを導入することで、理論的には確率論で学ぶ「大数の法則」が効き、国際配当が生み出されるということですが、実際に国際プーリングを導入している企業はどの程度その恩恵を受けているのか調査をしてみようということで、2014年/2015年に第1回、2016年/2017年に第2回の調査を実施してきています。(現在もこの調査は毎年実施しています)

    ~ 国際プーリングの企業担当者から多い質問 ~

  • 実際に、どの程度、コスト削減に寄与するものなのか?
  • 他社と比較して、有効に活用できているのであろうか?
  • どの国又どの保険契約がプーリングに適しているか?

この調査では、国際プーリングだけではなくキャプティブについても調査を実施しておりますが、ここでは国際プーリングに焦点を当てて見ていきます。また、第2回の2016年/2017年の調査結果を紹介してまいります。

    ~ 調査の概要 ~

  • 国際プーリング及びキャプティブを活用している約200社の多国籍企業が参加
  • 各企業から提出された過去6年(2010年~2015年)のプーリング/キャプティブ報告書(1400超の報告書)を分析
  • 調査対象国は118カ国、保険料総額は60億ドル
  • 国際配当の実績、保険料に対する割合、国別/保険契約別の配当傾向、リスクメカニズムによる傾向等を調査

【国際プーリングの調査結果について】

  1. コスト削減への寄与度
  2. 国際プーリングを実施している参加企業の内、2/3の企業で国際該当を獲得(コスト削減に寄与)しています。保険料に対する国際配当の割合で測ると、平均6.0%(個々のプーリングの配当割合の平均ではなく、参加企業の国際配当の合計額を参加企業の保険料の合計額で除した数値)、中央値1.5%となっています。もう少し詳細に国際配当の実現度合いを示したものが図1です。国際配当の割合が大きかった順に、10社ごとグルーピングして、各グループでの最大と最小の国際配当の割合を棒グラフで示しています。少数の企業がより多くの国際配当を獲得していること、また3割以上の企業が10%以上のコスト削減を達成していることが判ります。従って、国際プーリングの導入は国際配当を通してコスト削減に寄与していると言えます。

    (図1)
    Fig 1: All pooling participants average dividend

    (10thの棒グラフには、国際配当が最も大きかった10社が含まれており、最小で18%、最高で75%の国際配当を獲得)

    この統計を見る場合の留意点としては、国際配当を高める戦略を採用する企業もあれば、保険料そのものを直接引下げる戦略(この場合の国際配当は低いと想定されます)を採用している企業もあるということです。国際プーリングの活用戦略が国際配当に影響を及ぼしている可能性もあることを理解しておく必要があります。

  3. 国別の寄与度
  4. 今回の調査対象となった118カ国において、国際配当の獲得に寄与した国の上位10か国と下位10か国は、それぞれ図2-1と図2-2の通りとなっています。各国のその時の保険ビジネスの状況や、調査期間における調査企業の保険金支払いの発生状況という偶然性にも依存するため、常にこれらの国が上位10或いは下位10を占めるという訳ではありません。しかし、第1回、第2回の調査結果の両方において、上位10或いは下位10にランクインしている国が幾つかあります。例えば、保険の価格競争が厳しい国の場合には、既に保険料も十分に引き下げられており、プーリングしても保険の収支改善には寄与しない、逆にプーリングすると国際配当にマイナスの影響を及ぼすことになります。国際配当が獲得しやすい、或いは獲得しにくいという傾向が見られる国もありますので、全ての保険契約をプーリングすれば良いということではなく、各国の保険ビジネスの状況も勘案しながら、プーリングする国の保険契約を峻別していくことが必要です。

    (図2-1)
    Fig 2-1: Top 10 profitable countries for multinational pooling

    (図2-2)
    Fig 2-2: Bottom 10 profitable countries for multinational pooling 

  5. 保険種別の寄与度
  6. 生命保険と医療保険という保険の種別によって国際配当への寄与度を見ると、想定される通り、生命保険の寄与度は大きいと言えます。死亡とか障害とか保険金支払いに該当する事象の発生確率が低い保険契約の場合は、保険収支は剰余の傾向にあります。これらの保険契約を多くプールすれば、より望ましい経験料率が適用される等、国際配当に繋がっていきます。図3-2は、生命保険をプールした場合の寄与度が下位5カ国を示していますが、4カ国のみがマイナスであり、それ以外の国はプラスに寄与しているということになります。実際、生命保険の国際配当割合は、平均19%となっています。

    (図3-1)
    Fig 3-1: Top 5 profitable countries in life business for pooling

     (図3-2)
    Fig 3-2: Bottom 5 profitable countries in life business for pooling

    一方で、医療保険の場合は生命保険とは異なり、恒常的に保険支払実績が増加していることから、保険収支はマイナス傾向にあると言えます。従って、上位5カ国の5番目の国で6%程度(図4-1)の国際配当割合ですから、全体的に寄与度は小さい状況となっています。図4-2は下位5カ国を示しておりますが、医療費コストの上昇が大きいアジアの国が多く含まれています。

    (図4-1)
    Fig4-1: Top 5 profitable countries in medical business for pooling        

     (図4-2)
    Fig4-2: Lowest 5 profitable countries in medical business for pooling

    このように、プーリングを実施していく場合には、保険種別による保険契約の峻別も必要になってきます。しかし、生命保険と医療保険がバンドル型となっている場合には、それぞれを切り離してプーリングすることは出来ないため、過去の収支分析を実施して、プーリングの対象とするかどうか検討していくことになります。ここで紹介してきた内容は、あくまでも統計的な結果ですので、実際にプーリングを実施していく場合には、個別の保険契約について詳細を見ながら進めていくことになります。

  7. リスクメカニズムの寄与度の傾向
  8. 最後に、リスクメカニズムについて、少し簡単に触れたいと思います。図5では、3つのメカニズムに区分しています。Stop Loss (SL)とは、プーリングの収支がマイナスとなった場合、そのマイナスはネットワークが補填する方法です。Loss Carry Forward (LCF)は、プーリングの収支がマイナスとなった場合、そのマイナスは翌期に繰越していく方法です。Small Group (SGP)とは、人数規模や保険料規模の一定条件を満たさないため企業独自のプールを構築できず、他企業との共同プールを使用する方法です。調査結果では、SLが14%、LCFが61%、SGPが25%という採用状況になっています。SGPの国際配当割合の平均値は1.7%であり、SLの6.4%、LCFの6.5%と比較して小さくなっています。最初は、プールできる対象が少ないため他企業との共同プール(SG)から入っていくケースも多いかと思いますが、プール拡張に向けた活動を実施して企業独自のプールに移行することは検討に値するものと思われます。SLとLCFについては、それぞれメリット・デメリットがありますが、例えば、プールする保険契約の特性がどこかの国に偏っているなど、リスクの分散が十分に図れていない場合にはSLを採用して、単年度に発生するマイナス収支は単年度で清算終結し、翌年度には持ち越さない方策が良いかもしれません。プールしていく保険契約の集合体(ポートフォリオ)の中味を分析して決定していくことが必要かと思います。

    (図5)
    Fig 5: Amount of pool dividends recieved as a percentage of pooled

  9. 国際プーリングの積極的な有効活用
  10. 国際プーリングはファイナンスのスキームであり、積極的に活用すれば大きなコスト削減の可能性も見えてくるかもしれません。最初は、自然体でナチュラルプールの状況(図6の②の状況)からスタートしていきますが、そこで活動を止めずに次のステップである③以降に向かうことが重要かと思います。

    (図6)
    Fig 6: Effective use of international pooling

    ナチュラルプールは、まさしく種を植えた状況であり、水を与えて成長させていくことが必要です。つまり、プールを拡張していく為の活動こそが、国際プーリングの実施から得られる本質的な果実かもしれません。それはコスト削減のみならず、ガバナンスの構築にもプラスの要因をもたらすからです。Nest Stepとは? 保険ガイドラインの策定、プールの最適化、海外子会社との連携(契約更改時のプロセスの策定等々)があるかと思います。海外の福利厚生保険に係るコストが上昇していく昨今において、如何に円滑に日本の本社へ情報を吸い上げ、管理できるように体制を構築していくか、そのための一つのツールとして国際プーリングの活用は検討に値するのではないでしょうか。

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